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複合領域

2026.03.19

土器の三次元形状を深層学習で解析する新手法を開発 食器としての観点から須恵器を分析、古代日本の食習慣に迫る

【ポイント】

・土器の三次元(3D)点群データを用いて形態学的分類を行う深層学習(ディープラーニング)注1)モデルを開発し、二次元形状の解析では実現できなかった分類に成功した。
・猿投窯注2)出土の須恵器注3)917点の点群に対して高精度で分類が可能なことを示した。
・PCA注4)、階層クラスタリング注5)、3D Grad-CAM注6)によって分類の解釈性を高めた。
・須恵器の形態学的変化が食習慣の変化に関連している可能性を指摘した。
・再現性と拡張性のためにデータセットやコードをオープンソース化した。

 

名古屋大学大学院人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センターの井上 隼多 助教と、同大学院情報学研究科の堀 涼 日本学術振興会特別研究員PD(受入機関:名古屋大学)は、University College Londonの立田 渉 氏(筆頭筆者・本学文学部卒業生)および、Georgia Institute of Technologyの森川 公康 氏との共同研究で、AI(人工知能)による須恵器の三次元形態分類を用いて古代日本の食習慣の変化を考察しました。
本研究では、古代(8~9世紀)の須恵器917点を対象として、3D点群データと深層学習を用いた形態分類を行いました。AIによる考古資料の分類は写真や図面を用いることが一般的ですが、本研究では3D形状を直接扱える深層学習モデル「Point Transformer」を用いることで、立体としての情報を高い水準で保持したまま分類を行うことに成功しました
本研究の成果は3DデータとAIを用いた遺物研究の新たな方法論を提示するとともに、須恵器をはじめとする土器・陶器研究の新たな展開を示唆するものです。3D点群データとコードは公開しているため、再検証はもちろんのこと、他地域の土器データで応用することもできます。
現在の考古学は、国や地域によって研究手法の差が大きい状態となっていますが、本研究をより発展させていくことで、考古資料を統一された手順で分析する技術を確立し、国際的かつ相互理解可能な研究環境を実現することが期待されます。
本成果は、2026年2月25日刊行のJournal of Archaeological Scienceに Research Paper として掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)深層学習(ディープラーニング):
人間の脳の神経回路(ニューラルネットワーク)をモデルにしたAI技術の一種。たとえば、写真の中から猫か犬かを自動で判断するのも深層学習の一例。「深層」とは、ネットワークの層(レイヤー)が何重にも重なっていることを指す。
注2)猿投窯(猿投山西南麓古窯跡群):
古墳時代にあたる5世紀前半から操業がはじまった、愛知県内に位置する古代から中世にかけての窯業地帯。当初は須恵器の生産を行っていたが、技術革新に伴い、奈良時代以降は釉薬をかけた灰釉陶器や緑釉陶器の生産も行った。現在の瀬戸焼や常滑焼のルーツでもある。
注3)須恵器:
4世紀末から5世紀にかけて朝鮮半島から日本に伝来したやきものの一種。縄文土器や弥生土器と異なり、窯を使って高温で焼成を行うため、硬く焼きしまった防水性の高さが特徴となっている。古墳の副葬品や食器、さらには硯をはじめとした文具などさまざまな製品が作られた。
注4)PCA(主成分分析;Principal Component Analysis):
多次元のデータを簡単にまとめて見やすくする方法。深層学習のようにたくさんの特徴があるデータを、なるべく少ない軸に変換して、重要な情報を失わずに表示できるようにする。視覚化やデータの圧縮、ノイズの除去によく使われる。
注5)階層クラスタリング:
似たもの同士を順番にまとめていくグループ分けの方法。まず、最も似ている2つをまとめ、そのグループ同士をまたまとめていく、というように木(ツリー)の形でクラスタを作る。どの段階で区切るかによって、細かいグループや大きなグループを作ることができる。
注6)3D Grad-CAM:
深層学習のモデルが「どこを見て判断したか」を可視化する方法。元々は2Dの画像で使われていたが、3Dデータにも応用できる。モデルが注目した部分を色でハイライトすることで、判断の根拠を理解しやすくなる。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Archaeological Science
論文タイトル:Deep learning-based morphological classification of ceramics: A case study of 3D point cloud analysis for Sue ware, Japan
著者:Wataru Tatsuda(立田渉)1○Ryo Hori(堀涼)2・Kimiyasu Morikawa(森川公康)3○Hayata Inoue(井上隼多)4

 

1 Institute of Archaeology, University College London、2 名古屋大学大学院情報学研究科・未来社会創造機構、3 College of Computing, Georgia Institute of Technology・The New York Public Library、4 名古屋大学大学院人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター

 

DOI: 10.1016/j.jas.2026.106472

URL: https://doi.org/10.1016/j.jas.2026.106472

 

【研究代表者】

大学院人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター 井上 隼多 助教,

大学院情報学研究科・未来社会創造機構 堀 涼  日本学術振興会特別研究員PD, 立田 渉 氏(本学文学部卒業生)

井上 助教: https://www.hum.nagoya-u.ac.jp/cht/
堀 日本学術振興会特別研究員PD: https://www.ryo-univ.com/