TOP   >   農学   >   記事詳細

農学

2026.03.19

海の天然物が抗がん剤効果を最大7倍に高める機構を発見 効果を高めながら副作用を抑える、新しい治療戦略開発へ期待

【ポイント】

・海洋天然物ミカロライドCが、細胞分裂に重要な役割を果たすタンパク質のβ-チューブリンに結合するという、新たな機能を発見した。
・ミカロライドCおよびマクロラクトン類縁体注1) が、抗がん剤パクリタキセル注2) による働きを強力に促進・安定化する相乗効果を示すことを発見した。
・マクロラクトン類縁体は単独では細胞毒性が低い一方、パクリタキセルの抗腫瘍活性を4~7倍程度増強することを発見した。
・副作用を低減した新しい微小管注3)阻害薬の開発が期待される成果である。

 

名古屋大学大学院生命農学研究科の 北 将樹 教授、名古屋大学細胞生理学研究センターの 大嶋 篤典 教授らの研究グループは、海綿動物由来の天然物ミカロライドCが、従来知られていたアクチン脱重合作用に加えて、β-チューブリンにも結合する新しい作用機構を持つことを発見しました。さらに、ミカロライドCおよびマクロラクトン類縁体が、代表的な抗がん剤パクリタキセル(タキサン系薬剤)による微小管形成を強力に促進・安定化することを解明しました。
チューブリンは微小管と呼ばれる細胞内構造を作るタンパク質で、細胞分裂の際に重要な役割を果たします。抗がん剤パクリタキセル(タキサン系薬剤)は、この微小管を安定化することでがん細胞の分裂を停止させます。マクロラクトン類縁体は単独ではほとんど細胞毒性を示さないにもかかわらず、パクリタキセルと併用することで大腸がん細胞の増殖抑制活性を最大約7倍増強しました。一方、正常細胞では相乗効果はほとんど見られず、がん細胞に対する選択性が高まることも確認されました。タキサン系抗がん剤の効果を高めながら副作用を抑える新しい抗がん治療戦略の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2026年3月17日にドイツの国際学術誌 Angewandte Chemie International Edition にオンライン掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)マクロラクトン (macrolactone)
大きな環状構造を持つエステル化合物の総称であり、多くの天然物に見られる。薬理活性を示す天然物の重要な骨格の一つとして知られている。
注2)パクリタキセル (paclitaxel)
微小管を安定化させて細胞分裂を止める作用を持つ抗がん剤で、乳がんや卵巣がんなどの治療に広く使われている薬。類似骨格を持つ化合物とともにタキサン系薬剤とも呼ばれる。
注3)微小管 (microtubule)
細胞の中にある細い管状の構造で、細胞の形を保ったり、細胞分裂の際に染色体を分配したりする役割を持つ細胞骨格の一種。構成タンパク質である α/β-チューブリンのヘテロ二量体が重合することで形成される。

 

【論文情報】

雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Trisoxazole Macrolides Potentiate the Microtubule Assembly and Antimitotic Activities of Taxanes(トリスキサゾールマクロライドはタキサン類の微小管集合および抗有糸分裂活性を増強する)

 

著者:Shohei Ebihara, Rio Takaiso, Shota Kawaguchi, Atsunori Oshima, Masaki Kita(海老原 尚平1、髙礒 理央1、川口 翔大2、大嶋 篤典2–6、北 将樹1,7)1: 名古屋大学 大学院生命農学研究科、2: 名古屋大学 大学院創薬科学研究科、3: 名古屋大学 細胞生理学研究センター、4: 名古屋大学 糖鎖生命コア研究所、5: 名古屋大学One Medicine創薬シーズ開発・育成研究教育拠点、6: 名古屋大学 未来社会創造機構 量子化学イノベーション研究所、7: 名古屋大学 未来社会創造機構 オープンイノベーション推進室
DOI:10.1002/anie.202522954
URL: https://doi.org/10.1002/anie.202522954

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 北 将樹 教授
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~chembio/index.html