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生物学

2026.03.27

概日時計を操る化合物で植物の開花期を精密制御

【ポイント】

・多くの植物は日長を指標に開花期を決めている。
・日長測定の基礎である概日時計を遅くする低分子化合物により、アオウキクサの開花誘導を精密制御し、また最大で2時間以上(開花期換算で2カ月)も変化させた。
・化合物ツールによる定量的な開花制御を実証したことで、農業分野での応用も期待できる。

 

名古屋大学大学院生命農学研究科の前田 明里 日本学術振興会特別研究員PD(受入機関:名古屋大学)、村中 智明 助教、中道 範人 教授、同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の佐藤 綾人 特任准教授、京都大学大学院理学研究科の伊藤 照悟 助教、小山 時隆 准教授からなる研究グループは、概日時計の進行を遅くする化合物を用いて、植物の開花期を精密に制御できることを実証しました
概日時計は生体内に約1日周期のリズム(概日リズム)を生み出す分子機構です。植物はこのリズムを基盤として日長を計測し、季節変化を読み取り、適切な時期に花成を行います。概日時計は外環境に同調し、昼夜サイクルの下で24時間周期のリズムを示します。しかしながら、周期の違いは遺伝子発現タイミングの変化を引き起こすことで日長計測を狂わせ、結果的に花成と開花次期を変えることが知られていました。
これまでは概日リズムの周期に変化を起こす時計遺伝子の変異体を用いて解析が進められてきましたが、このアプローチでは周期を連続的に変化させることはできないため、概日リズム周期と花成の関係を定量的に把握することはできていませんでした。
本研究では、当研究室においてシロイヌナズナを用いた先行研究で見出されたCK1阻害剤であるB-AZという概日リズム周期を延長する化合物が、アオウキクサにも同様に作用することを確かめました。アオウキクサは短日植物であり、日長が短くなると花成が誘導されますが、周期が延長したアオウキクサでは花成ホルモンをコードする遺伝子FTの発現タイミングが遅れることを見出しました。花成が誘導される日長はB-AZ濃度依存的に長くなりました。花成誘導日長は最大で2時間も延長され、これは名古屋大学が位置する北緯35度付近の日長変化で換算すると、開花期が2カ月変化したことに相当します。概日時計と花成の関係は古くから指摘されていましたが、化学物ツールによる濃度依存的な定量的制御を実証したことで、開花期制御における概日リズム周期の重要性が明らかとなり、農業分野での応用も新たなステージに移行すると考えられます。
本研究成果は、2026年3月25日付でアメリカ植物生理学会の学会誌『Plant Physiology』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:Plant Physiology
論文タイトル:A small-molecule clock modulator quantitatively manipulates photoperiodic flowering
著者:前田明里(名古屋大学)、伊藤照悟(京都大学)、小山時隆(京都大学)、佐藤綾人(名古屋大学)、中道範人(名古屋大学)、村中智明(名古屋大学)
DOI: 10.1093/plphys/kiag112
URL: http://doi.org/10.1093/plphys/kiag112

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 村中 智明 助教 
https://nnakamichi11.wixsite.com/my-site