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工学

2026.03.27

細菌細胞の"毛"が引っ張られても抜けない仕組みを解明 膜タンパク質が"ナット"のように固定される新原理「Protein nut」提唱

【ポイント】

・細菌細胞表層の繊維状タンパク質が引っ張られても膜から抜けない仕組みを全原子分子動力学シミュレーション注1)により解明。
・ペリプラズム注2)側のタンパク質が“ナット”のように働き、膜貫通構造を支えることを発見し、「Protein nut(プロテイン ナット)」として提唱。
・生体分子の設計原理の理解や、バイオ材料・ナノデバイスへの応用に期待。

 

名古屋大学大学院工学研究科の堀 克敏 教授、鈴木 淳巨 准教授、吉本 将悟 助教、笹原 純 博士後期課程学生らの研究グループは、アシネトバクター属細菌Tol 5がもつ巨大接着タンパク質AtaA注3)の膜固定機構を、全原子分子動力学シミュレーションにより解析しました。
AtaAは長さ約260ナノメートル(ナノは10億分の1)に達する巨大な繊維状タンパク質で、細胞をさまざまな物質表面に強固に付着させます。本研究では、AtaAを細菌の細胞表面につなぎ止める役割を担うAtaAの膜貫通ドメインと、それに結合するペリプラズムタンパク質TpgA注4)に着目し、引き抜き過程をコンピューター上で再現しました。その結果、TpgAがペリプラズム側から膜貫通ドメインを支えることで、膜からの引き抜き抵抗が大きく増加することを明らかにしました。この構造は、ボルトがナットによって固定される機械構造に類似しており、本研究ではこの機構を「Protein nut」と名付けました。
これらの知見は、細菌の強固な付着機構の理解だけでなく、耐久性の高いバイオ材料やナノ構造体の設計など、幅広い分野への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年3月18日付国際学術雑誌「Computational and Structural Biotechnology Journal」に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)全原子分子動力学シミュレーション:
分子をつくるすべての原子の動きをコンピューター上で再現し、タンパク質などの振る舞いや分子同士の相互作用を詳しく調べる計算手法。
注2)ペリプラズム:
グラム陰性細菌において、内膜と外膜の間にある空間。細胞表層タンパク質の輸送や保持、物質の受け渡しなどに関わる。
注3)AtaA:
堀教授のグループが高付着性アシネトバクター属細菌Tol 5から発見した細胞表層ナノファイバータンパク質。プラスチックやガラス、金属など様々な材料表面に対して非常に高い接着性を示す。

注4)TpgA:

AtaAの膜貫通ドメインに結合するペリプラズムタンパク質。本研究で、AtaAが引っ張られても細胞表層の膜から抜けないように固定する機能を持つことが明らかになった。

 

【論文情報】

雑誌名:Computational and Structural Biotechnology Journal
論文タイトル:Computational analysis of periplasmic protein-mediated resistance to membrane extraction of a trimeric autotransporter adhesin transmembrane domain
著者:Jun Sasahara, Shogo Yoshimoto, Atsuo Suzuki, Katsutoshi Hori
Department of Biomolecular Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Nagoya, Japan        
DOI: 10.34133/csbj.0045
URL: https://spj.science.org/doi/abs/10.34133/csbj.0045

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 堀 克敏 教授, 主著者:笹原 純(博士後期課程学生)
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/life3/index.html