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医歯薬学

2026.03.30

遺伝性神経難病の超早期病態を解明~超早期治療で神経変性の抑制が期待できる~

【ポイント】

・成人発症の神経難病である球脊髄性筋萎縮症*1(SBMA) のモデルマウス*2において、出生直後より興奮性シナプス*3遺伝子の増加と運動ニューロン*4の過興奮が生じていることを明らかにしました。

・患者から樹立したiPS細胞*5由来の運動ニューロンでも、同様の神経過興奮がみられました。

・核酸医薬*6を用いて超早期に過興奮を抑制すると、運動ニューロン変性*7が改善しました。

 

名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、蛭薙智紀 YLC特任助教 (同大学高等研究院併任、筆頭著者)、佐橋健太郎准教授らの研究グループは、愛知医科大学加齢医学研究所神経iPS細胞研究部門の岡田洋平教授らとの共同研究により、遺伝性神経難病である球脊髄性筋萎縮症 (SBMA) の超早期病態を明らかにしました。
SBMAはアンドロゲン受容体 (AR) 遺伝子の病的バリアント*8を原因として発症し、中年期以降に骨格筋*9の萎縮や筋力低下が進行する遺伝性の神経難病です。SBMAでは病的ARタンパク質が、筋肉を動かす神経 (運動ニューロン) の核内*10に凝集体*11を形成することがわかっていますが、病的ARの神経毒性がいつ、どのように生じているかは未解明でした。
本研究では、SBMAのモデルマウスでは出生直後より、興奮性シナプス遺伝子の発現が上昇し、運動ニューロンが過興奮の状態であることを明らかにしました。またSBMA患者から樹立したiPS細胞由来の運動ニューロンにおいても、同様の変化がみられました。さらに、核酸医薬を用いて出生直後に病的ARや興奮性シナプス遺伝子の発現を抑制することで、マウスの運動機能や運動ニューロン変性を改善することがわかりました。これらの結果から、成人発症するSBMAにおいて、運動ニューロンの異常が新生児期から始まっていること、および超早期の治療介入により長期にわたって病態を改善できる可能性が示されました。
本研究成果は、2026年3月27日付英国科学雑誌 『Nature Communications』 に掲載されました。

 

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【用語説明】

*1)球脊髄性筋萎縮症:AR遺伝子のCAG繰り返し配列が延長することで発症する遺伝性の神経難病。中年期以降に筋肉の萎縮や筋力低下が進行性に増悪する。
*2)モデルマウス:遺伝子の改変などにより、病気を再現したマウス
*3) 興奮性シナプス:神経細胞と神経細胞の接続部をシナプスと呼ぶ。シナプスには神経細胞の活動を上昇させる興奮性シナプスや、活動を低下させる抑制性シナプスがある。
*4)運動ニューロン:運動を司る神経細胞のこと。主に脊髄の前角と呼ばれる部位に存在する。
*5)iPS細胞:ヒトの皮膚細胞などより樹立する多能性幹細胞。あらゆる細胞に分化でき、本研究では運動ニューロンに分化させたiPS細胞を使用した。
*6)核酸医薬:DNAなどの核酸を基にした治療薬。遺伝子情報に作用してタンパク質の産生を抑制・制御することができる。
*7)変性:細胞が障害され衰えていくこと。
*8)病的バリアント:塩基配列と呼ばれるDNAの配列に異常が生じること。変異と同意。
*9)骨格筋:手足や顔などを動かす筋肉のこと。
*10)核内:細胞の遺伝情報 (DNA) が含まれる、核と呼ばれる部位の内部。
*11)凝集体:タンパク質が固まり、分解されにくくなった構造物。

 

【論文情報】

雑誌名: Nature Communications
論文タイトル: Restoring early postnatal synaptic dysregulation rescues motor neuron degeneration in a mouse model of Spinal and Bulbar Muscular Atrophy
著者: Tomoki Hirunagi1,2, Kentaro Sahashi1, Madoka Iida1,
Kazunari Onodera1,3, Satoshi Yokoi1,4, Yosuke Ogura1, Genki Tohnai1,5, Kenji Sakakibara1, Kentaro Maeda1, C. Frank Bennett6, Yohei Okada3, Masahisa Katsuno1
1. Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine
2. Nagoya University Institute for Advanced Research
3. Department of Neural iPSC Research, Institute for Medical Science of Aging, Aichi Medical University School of Medicine
4. Department of Pathophysiological Laboratory Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine
5. Division of ALS Research, Aichi Medical University
6. Ionis Pharmaceuticals
DOI: 10.1038/s41467-026-70244-2

URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-70244-2

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科神経内科学 勝野 雅央 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/clinical-neurosciences/neurology/