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工学

2026.04.13

自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功~グラフェン/SiC界面が生み出す新物質~

【ポイント】

・自然界には安定に存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功しました。
・2次元物質のグラフェンと3次元物質のSiCの界面に鉄と酸素を導入する新たな手法により、この2次元酸化鉄作製を実現しました。
・スピントロニクスデバイスなどへの応用が期待され、さらに他の2次元遷移金属酸化物に展開することによって新たな量子物性の開拓につながる可能性があります。

 

早稲田大学の乗松航(のりまつ わたる)教授、物質・材料研究機構(NIMS)の榊原涼太郎(さかきばら りょうたろう)博士(研究当時名古屋大学所属)、日本原子力研究開発機構の寺澤知潮(てらさわ ともお)研究副主幹、東京大学の河内泰三(かわうち たいぞう)技術専門職員、福谷克之(ふくたに かつゆき)教授、名古屋大学の伊藤孝寛(いとう たかひろ)准教授の研究グループは、自然界には存在しない構造を持つ2次元酸化鉄の作製に成功しました。
 酸化鉄※1は、様々な組成・構造を持つものが存在し、例えば、スピネル構造を持つマグネタイトFe3O4は紀元前から鉄につく磁石として知られており、コランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3は主要な鉄鉱石でありヘモグロビンと同様の由来を持つ名前が示すように赤い顔料として用いられています。
当グループは、2次元物質※2であるグラフェンと、3次元物質である炭化ケイ素(SiC)基板の界面※3に、2次元的な構造を持つ酸化鉄を作製する方法を発見しました。さらに、形成された2次元酸化鉄を原子レベルで構造解析した結果から、この界面物質は自然界には存在しない構造を持つ酸化鉄であることを明らかにしました。本研究成果は、界面を利用することで従来の化学平衡では実現できなかった新しい構造を作り出す手法を示した点で重要です。
本成果は、2026年3月14日付けで、Wiley社が発行する学術誌『Small Methods』誌に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 酸化鉄
鉄と酸素の化合物であり、組成・構造によって異なる物性を持つ。例えば、スピネル構造のマグネタイトFe3O4は磁石として、コランダム型構造を持つヘマタイトFe2O3は赤色顔料として用いられてきた。これまでに多様な酸化鉄の結晶構造が報告されており、構造によって物性も大きく異なることから、新しい構造を持った酸化鉄材料の探索は基礎・応用の両側面で意義深い。

 

※2 2次元物質
炭素原子1層のみで構成されるグラフェンや、ホウ素と窒素が同一平面内に配列した六方晶窒化ホウ素、遷移金属の原子層がカルコゲンの原子層に挟まれた構造を持つ遷移金属ダイカルコゲナイドなどに代表される物質群の総称。上下方向に共有結合をもたない2次元的な構造を持つことにより3次元の物質とは異なる物性や機能が見られ、近年大きな注目を集めている。

 

※3 界面
異なる物質同士が接している境界。一般に界面では、通常の物質とは異なる原子配列が現れることが多い。特に2次元物質と3次元物質の界面は、異種物質の導入や構造制御の可能な2次元空間とみなすことができ、新物質を作製する良質な結晶成長場となる。また界面では、互いに接する物質の対称性が自発的に破れることから、新規物性発現の場としても期待される。

 

【論文情報】

雑誌名:Small Methods
論文名:2D Iron Oxide at the Graphene/SiC(0001) Interface
執筆者名(所属機関名):Ryotaro Sakakibara (NIMS), Tomo-o Terasawa (日本原子力研究開発機構)、Taizo Kawauchi (東京大学), Katsuyuki Fukutani (東京大学)、Takahiro Ito (名古屋大学)、Wataru Norimatsu (早稲田大学)
掲載日時:2026年3月14日
掲載URL:https://doi.org/10.1002/smtd.202501889
DOI:doi.org/10.1002/smtd.202501889

 

【研究代表者】

名古屋大学シンクロトロン光研究センター 伊藤 孝寛 准教授