・トリチウム水(HTO)の赤外吸収を高感度観測:トリチウム水(HTO)の非常に強い吸収波長帯(4.3μm帯)を標的とした、光共振器強化型吸収分光(CRDS)注1)装置を開発した。従来の光学的手法と比較して、大幅な性能向上を実現し、世界最高のトリチウム分光感度を達成した。
・光学的手法による定量的な直線性と再現性の証明: 試料中のトリチウム放射能濃度と得られた信号の間に、高い線形性があることを実験により世界で初めて明らかにした。また、同一条件での繰り返し測定により、本手法の高い再現性を確認した。
・微量液体サンプルの測定:微量の液体試料(数 µL)から、前処理なしで迅速にトリチウムの定量測定を行うことに成功した。
名古屋大学大学院工学研究科の寺林 稜平 助教、富田 英生 教授らは、レーザー分光を用いてトリチウム濃度を高感度に測定する新技術を開発しました。
福島第一原子力発電所の廃止措置などで重要なトリチウム分析において、従来の標準手法である放射線計測法(LSC法)は、他の放射性物質を除去するための複雑な前処理を必要とする点が課題でした。
本研究では、トリチウム水分子(HTO)が光を極めて強く吸収する、中赤外領域に着目し、光共振器による多重反射により微弱吸収を増幅する光共振器強化型吸収分光(CRDS)を適用しました。その結果、分光学的手法によるトリチウムの定量分析(濃度との直線関係および再現性)を世界で初めて体系的に実証しました。
本技術は、将来的にはさらなる高感度化・長期安定性の向上により、原子力施設や核融合炉におけるトリチウムのリアルタイム計測への応用が期待されます。また、極微量試料を対象とする創薬・バイオ分野などへの展開も視野に入ります。
本研究成果は、2026年4月4日付Springer Nature雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。
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注1)光共振器強化型吸収分光(CRDS):
キャビティリングダウン分光法(Cavity Ring-Down Spectroscopy)。2枚の光学ミラーを向かい合わせた高反射率光共振器の多重反射を利用し、数十cm程度の長さの共振器で、実効的な光路長は数kmに及ぶ。これにより、光吸収物質の光吸収を飛躍的に増幅し、微量物質由来の微弱な吸収信号を物質選択的に観測できる。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Quantitative analysis of tritiated water using cavity ring-down spectroscopy
著者:Ryohei Terabayashi(名古屋大学工学研究科助教), Erika Takayama(名古屋大学工学研究科博士前期課程学生(投稿当時)), Hideki Tomita(名古屋大学工学研究科教授)
DOI: 10.1038/s41598-026-46080-1
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-026-46080-1
大学院工学研究科 富田 英生 教授, 主著者;寺林 稜平 助教
https://qbe.energy.nagoya-u.ac.jp/