・糖鎖注1)の全体構造を学習できる事前学習済みAIモデル「GlycanGT(グリカンジーティー)」を開発。
・糖鎖を単糖と結合のグラフ注2)構造として表現し、Transformer注3)を用いて局所構造だけでなく枝分かれを含む全体の関係性まで捉えられるようにした。
・既存手法との比較で、8つのベンチマーク課題において高い性能を示した。
・構造が一部欠けた、あるいは曖昧な糖鎖配列に対しても、妥当な単糖や結合候補を高精度に提案。
・糖鎖データベースの整備支援、糖鎖機能の解明、疾患バイオマーカー探索、糖鎖創薬などへの展開が期待。
名古屋大学糖鎖生命コア研究所 松井 佑介 准教授、木谷 晃広 特任助教、張 秉元(ちょう へいげん)特任助教、檜森 弘一 研究員らの研究グループは、糖鎖の構造情報を高精度に学習・表現できる新しいAIモデル「GlycanGT」を開発しました。
今回、研究グループは糖鎖を「単糖」と「糖同士の結合」から成るグラフとして表現し、自然言語処理で広く用いられるTransformer技術を応用したGraph Transformer型の事前学習モデル注4)を構築しました。これにより、従来法が得意としてきた局所的な特徴だけでなく、糖鎖全体にまたがる構造的な関係性を学習できるようになりました。
開発したGlycanGTは、糖鎖の由来生物の分類、糖鎖のタイプ分類、免疫原性注5)予測などの標準ベンチマーク課題で既存法と比較し、複数の課題で最先端レベルの性能を示しました。さらに、糖鎖の一部を意図的に隠して予測させる実験では、曖昧な糖鎖配列に対しても有力な候補を上位に提示できることを確認しました。これは、将来的に糖鎖データベース中の未確定構造の補完や、専門家の構造注釈作業の支援につながる可能性があります。
本研究成果により、糖鎖の複雑な構造をAIで扱うための基盤が大きく前進しました。今後は、糖鎖関連データベースの充実に加え、がんや神経変性疾患、感染症などにおける糖鎖異常の理解、さらには糖鎖を標的とした診断・創薬研究への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年3月27日(日本時間)付で、Oxford University Press刊行の学術誌『Bioinformatics』に掲載されました。
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注1)糖鎖:
単糖が複数つながってできた生体分子。タンパク質や脂質に結合して存在し、細胞認識や免疫などに関わる。
注2)グラフ:
点(ノード)と線(エッジ)から成るデータ構造。本研究では単糖をノード、糖同士の結合をエッジとして糖鎖を表現した。
注3)Transformer:
自然言語処理などで広く使われるAIモデル。入力全体の関係性を同時に捉えることができる。
注4)事前学習モデル:
大量データからあらかじめ一般的な特徴を学習したモデル。少量データの課題にも応用しやすい。
注5)免疫原性:
物質が免疫系に認識され、免疫応答を引き起こす性質。
雑誌名:Bioinformatics
論文タイトル:GlycanGT: A Pretrained Graph Transformer Framework for Glycan Graph Representation and Generative Learning
著者:
木谷 晃広
名古屋大学 糖鎖生命コア研究所 特任助教
張 秉元
名古屋大学 糖鎖生命コア研究所 特任助教
檜森 弘一
名古屋大学 糖鎖生命コア研究所 研究員
松井 佑介
名古屋大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖ビッグデータセンター 数理解析部門 准教授
大学院医学系研究科 准教授
DOI: 10.1093/bioinformatics/btag147
URL: https://doi.org/10.1093/bioinformatics/btag147
糖鎖生命コア研究所 松井 佑介 准教授 / 木谷 晃広 特任助教
https://matsui-lab.github.io/matsui-lab-site/