・心房細動に対するカテーテルアブレーション後、抗凝固薬をいつ中止すべきかについて明確な基準は確立されていません。
・抗凝固療法の早期中止は、血栓塞栓症リスクを高める一方で、長期の継続は出血リスク増加につながります。
・本研究グループは、2,448名の大規模データから、心房細動のカテーテルアブレーション後1~537週において独創的なスコアを用いて連続的なリスク評価を行い、術後8.1か月時点が抗凝固薬中止の最適時期である可能性を示しました。
名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学の岩脇 友哉 研究生、柳澤 哲 特任講師、因田 恭也 准教授、室原 豊明 元教授(現:国立長寿医療研究センター)らの研究グループは、心房細動*1)に対するカテーテルアブレーション*2)後の抗凝固薬中止の最適な時期について検討し、重要な知見を発表しました。
カテーテルアブレーションは、心房細動を根治または大幅に抑制できる治療法として広く行われています。心房細動は脳梗塞などの血栓塞栓症の原因となるため、多くの患者さんで抗凝固薬が使用されています。
現在のガイドラインでは、術後少なくとも2〜3か月の抗凝固療法継続が推奨されていますが、その後「いつ中止してよいのか」については明確な基準がありません。早期に中止すると血栓塞栓症のリスクが上昇する可能性がある一方で、長期間継続すると重篤な出血(特に頭蓋内出血)を引き起こす可能性があります。そのため、血栓リスクと出血リスクのバランスに基づいて内服の適応を評価することが重要とされています。
本研究では、2006年から2022年に名古屋大学医学部附属病院で初回アブレーションを受けた2,448名を対象に解析を行いました。術後1週から537週までの全ての時点で、逆確率重み付け法を用いて背景因子を調整した上でランドマーク解析を繰り返し実施し、血栓塞栓症、大出血、全死亡のイベント発生リスクを評価しました。さらに、「逆ネット・クリニカル・ベネフィット(reverse NCB)」という独創的な評価指標を用いて、出血リスクと血栓リスクの差を定量的に評価し、抗凝固薬中止のベネフィットが最大となる時点を調査しました。
その結果、reverse NCBが最大となったのは術後8.1か月、すなわち術後8.1か月時点での抗凝固薬中止が、血栓塞栓症と出血リスクのバランスが最も良好となる可能性が示されました。
実際に術後8.1か月時点で抗凝固薬を中止した群と継続した群を比較すると、中止群では血栓塞栓症リスクが有意に上昇する一方、出血リスクは有意に低下しました。死亡率については両群で有意な差は認められませんでした。
本研究は、カテーテルアブレーションを「成功したから中止する」のではなく、「最適な時期を見極めて中止する」という新たな視点を提示し、より安全で合理的な心房細動治療後の抗凝固薬管理の実現に貢献出来ることが期待されます。
本研究成果は、2026年4月13日付(日本時間4月14日)米国科学誌 『JACC:Clinical electrophysiology』に掲載されました。
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*1)心房細動:
心臓のリズムが不規則になる状態で、心房が速く不規則に動きます。これにより、血液がよどみやすくなり、血栓や脳梗塞のリスクが高まります。
*2)カテーテルアブレーション:
細い管(カテーテル)を血管から心臓に挿入し、不整脈の原因となる心臓の一部を焼灼して正常なリズムを取り戻す治療法です。
雑誌名:JACC: Clinical electrophysiology
論文タイトル:Optimal Timing for Oral Anticoagulant Discontinuation and Prognosis after Successful Catheter Ablation for Atrial Fibrillation
著者:岩脇友哉、柳澤 哲、因田恭也、宮前貴一、宮澤宏幸、後藤孝幸、近藤 俊、舘 将也、福島大史、平松武宏、足立健太郎、寺岡 翼、太田竜右、下條将史、奥村貴裕、辻󠄀 幸臣、室原豊明
DOI: 10.1016/j.jacep.2026.02.027
URL: https://doi.org/10.1016/j.jacep.2026.02.027
大学院医学系研究科 先進循環器治療学 柳澤 哲 病院助教
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/endowed-chair/cardiovascular-therapeutics/