・ヒトiPS細胞注1)において、多能性維持を行う転写因子注2)POU5F1(OCT4)、SOX2、NANOなどが若いLINE-1注3)配列へ結合することを発見した。
・POU5F1などをノックダウンするとLINE-1発現が上昇し、多能性維持転写因子がLINE-1転写を抑制的に制御している可能性が示された。
・それぞれの細胞の発生プログラムに従ってエピジェネティックに活性化したLINE-1の発現量が、その細胞で重要な働きを行う転写因子群によって適切な範囲に維持されているという、LINE-1と宿主細胞の新たな制御関係が示唆された。
名古屋大学大学院生命農学研究科の鈴木 輝 博士後期課程学生、一柳 健司 教授の研究グループは、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)において、POU5F1(OCT4)などの多能性維持に重要な転写因子がゲノム中のレトロトランスポゾン「LINE-1(L1)」の発現を抑制している可能性を明らかにしました。
LINE-1はヒトゲノムの約17%を占める転移因子であり、成体で過剰に活性化するとゲノム不安定化、神経疾患、老化などに関与することが知られています。一方で、初期発生期に活発に転写されますが、その発現がどのように適切に制御されているのかは十分に理解されていませんでした。本研究では、多能性維持因子であり、Yamanaka因子としても知られるPOU5F1(OCT4)、SOX2、NANOGなどの転写因子が進化的に若いLINE-1サブファミリーの5’UTR領域注4)に結合していることを発見しました。さらに、これらの転写因子の量をノックダウンによって減少させるとLINE-1発現が上昇しました。すなわち、これらの転写因子がLINE-1転写を抑制している可能性が示されました。
本成果は、多能性幹細胞におけるゲノム安定性維持機構の理解を深めるとともに、初期発生や神経疾患、老化に関与するLINE-1制御機構の解明につながることが期待されます。本研究成果は、2026年5月6日に学術誌Genes to cellsに掲載されました。
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注1)iPS細胞:
分化した体細胞にYamanaka因子を強制的に発現させることで、未分化な状態に変化させた細胞のこと。
注2)転写因子:
DNAへ結合し、遺伝子の発現量を調節するタンパク質。
注3)LINE-1(L1):
Long Interspersed Nuclear Element-1。レトロトランスポゾンの一種で、RNAを介して自身をコピーし、ゲノム中の別の場所へ挿入されるDNA配列。逆転写酵素やDNA切断酵素をコードしており、過剰に活性化するとゲノム不安定化を引き起こすことがある。
注4)5’UTR領域:
遺伝子やLINE-1において、転写はされているがタンパク質には翻訳されない領域のうち、上流側の塩基配列のこと。LINE-1の場合、このDNA領域に転写制御に重要な塩基配列が含まれている。
雑誌名:Genes to Cells
論文タイトル:POU5F1/OCT4 Attenuates Human LINE‐1 Expression Levels in Induced Pluripotent Stem Cells
著者:Hikaru Suzuki and Kenji Ichiyanagi
DOI: 10.1111/gtc.70120
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/gtc.70120
大学院生命農学研究科 一柳 健司 教授
http://nuagr2.agr.nagoya-u.ac.jp/~ged/index.html