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化学

2026.05.28

薬が効かない耐性菌を光でピンポイント撃退!世界的脅威アシネトバクターに対する新たな感染症治療へ

【ポイント】

・既存の抗生物質が効かない多剤耐性菌注1)(病原性アシネトバクター・バウマニ)に対する、新たな治療戦略を開発。
・「トロイの木馬」による標的デリバリー:細菌が自身の生存に必要な栄養(ヘム)を取り込むためのタンパク質を運び屋として利用し、光で活性化する殺菌薬(金属錯体)を細菌内部へ“密輸”することに成功。
・標的菌に青色光を当てることで細菌の内部で活性酸素種注2)を発生させ、多剤耐性菌を最大99.999%死滅させる強力な「光殺菌(光線力学療法注3))」を実証。

 

名古屋大学大学院理学研究科の荘司 長三 教授、Nguyen Q Viet(グエン クオック ヴィエット)博士後期課程学生の研究グループは、理化学研究所放射光科学研究センターの杉本 宏 専任研究員との共同研究で、病原菌自身の栄養取り込み経路を利用して多剤耐性菌を選択的に光殺菌する「トロイの木馬」戦略の開発に成功しました。
既存の抗生物質が効かない多剤耐性菌のまん延は、「静かなパンデミック」として世界的な脅威となっています。特に多剤耐性アシネトバクター・バウマニが引き起こす院内感染は深刻であり、従来の薬剤耐性メカニズムを回避できる、新たな感染症治療法の確立が強く求められています。
本研究では、この病原菌が生存に必要な鉄分(ヘム注4))を外部から獲得するために分泌するタンパク質「HphA」に着目しました。HphAはヘムだけでなく、さまざまな人工金属錯体を捕捉できることを明らかにし、HphAを運び屋として利用し、光増感剤注5)を細菌内部へ輸送する「トロイの木馬」戦略を考案しました。
実際に、この経路を利用して光増感剤を多剤耐性アシネトバクターに選択的に取り込ませ、青色光を照射したところ、菌体内で発生した活性酸素種により、最大99.999%という高い殺菌効率で標的菌を死滅させることに成功しました。
病原菌が生存に必要とする栄養獲得経路を利用した本手法は、耐性が獲得されにくく、かつ菌選択的に効果を発揮できる強力な抗菌治療法となることが期待されます。本研究成果は、2026年5月25日付米国化学会発行の学術誌『ACS Infectious Diseases』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)多剤耐性菌:
複数の抗生物質に耐性を持ち、既存の薬が効かなくなった細菌のこと。治療が極めて困難で重症化しやすいため、現代医療における世界的な健康脅威となっている。
注2)活性酸素種:
酸素分子がより反応性の高い状態に変化したもので、細胞のDNAやタンパク質に強いダメージを与える。本手法では、これを細菌内部で意図的に発生させて殺菌する。
注3)光線力学療法(PDT):
光に反応する薬剤を標的に取り込ませ、光照射によって活性酸素を発生させて細胞を破壊する治療法。近年は、抗生物質が効かない耐性菌に対する新たな殺菌手法としても注目されている。
注4)ヘム:
鉄分を含む分子で、人間を含む多くの生物にとって生きていくために不可欠な栄養素。血液中のヘモグロビンなどに含まれる。
注5)光増感剤:
特定の光のエネルギーを吸収し、そのエネルギーを使って周囲の酸素を強力な「活性酸素」に変換する役割を持つ物質。

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Infectious Diseases
論文タイトル:Photodynamic Inactivation of Hypervirulent Acinetobacter baumannii via a Trojan Horse Strategy Targeting Heme Acquisition Pathway
著者:Nguyen Q Viet (名古屋大学大学院理学研究科),杉本 宏(理化学研究所放射光科学研究センター),荘司 長三(名古屋大学大学院理学研究科)       
DOI:10.1021/acsinfecdis.6c00032
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsinfecdis.6c00032

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 荘司 長三 教授
https://bioinorg.chem.nagoya-u.ac.jp/