・根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送を調節する遺伝子「AHK3」を発見した。
・接ぎ木技術を用いて、根のみでAHK3遺伝子の機能を低下させたことで、離れた器官の葉の成長が増加した。
・AHK3遺伝子は作物増産における有力なターゲットになることが期待される。
島根大学大学院自然科学研究科博士後期課程の門田宏太(現 岡山大学 資源植物科学研究所 特別研究員PD)、島根大学総合科学研究支援センターの蜂谷卓士准教授、中川強教授らの研究グループは、中部大学の鈴木孝征教授、理化学研究所の小嶋美紀子技師、竹林裕美子テクニカルスタッフⅠ、東京大学の神谷岳洋准教授、岡山大学の木羽隆敏教授、名古屋大学の榊原均教授との共同研究により、植物ホルモンのサイトカイニン1)の受容体2)AHK3遺伝子が、根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送を調節することを発見しました。
根で作られたサイトカイニンは、道管3)を介して葉まで運ばれ、葉の成長を促進する作用をもつことが知られています。本研究では、接ぎ木技術4)を用いて、モデル植物のシロイヌナズナ5)の根のみでAHK3遺伝子の機能を改変したことで、根や道管液中のサイトカイニン濃度が大きく増加することを発見しました。その結果、離れた器官である葉のサイトカイニン応答性が高まり、葉の成長を人為的に増加させることに成功しました。
本研究成果は、国際学術誌「Plant and Cell Physiology」に6月12日 09:01 JST(6月12日00:01 UTC)にオンライン公開されました。
本研究は、科学研究費補助金・特別研究員奨励費[JP24KJ1709]、科学研究費補助金・基盤研究(C)[JP23K04978、JP20K05771]、科学研究費補助金・基盤研究(B)[JP21H02087]、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム[JPMJSP2155]の支援のもとで行われました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
1) サイトカイニン:成長や発達、ストレスや栄養応答のような植物の多様な生理プロセスの調節に関わる植物ホルモンの一つである。シロイヌナズナでは、イソペンテニル型とトランスゼアチン型のサイトカイニンが存在し、後者は特に根で多く作られ、道管を介して葉に運ばれ、葉の成長を促進する作用をもつ。
2) サイトカイニン受容体:サイトカイニンは、細胞膜や小胞体膜に存在するサイトカイニン受容体に感知されると、そのシグナルがリン酸リレーを介して転写因子型レスポンスレギュレーターへと伝達され、サイトカイニン応答性遺伝子の発現が調節される。シロイヌナズナには、AHK2、AHK3、AHK4/CRE1の3種類のサイトカイニン受容体遺伝子が存在する。
3) 道管:植物体内における物質輸送を行う内部組織であり、水、栄養塩、植物ホルモン、ペプチドホルモンのような多様な物質の輸送が行われている。
4) 接ぎ木技術:異なる植物体を人為的に作った切断面でつなぎ合わせることで、新たな植物体を作製する技術のこと。本研究では、無菌的に5日齢のシロイヌナズナの胚軸部分を切断し、ピンセットを用いてつなぎ合わせた。習得が難しい技術の一つとして知られている。
5) シロイヌナズナ:アブラナ科の植物であり、植物研究におけるモデル生物(普遍的な生命現象を明らかにするために使われる代表的な生物)の一つである。利点として、遺伝子情報や材料が整備されていること、世代時間が短いこと、実験室で扱いやすいこと、などが挙げられる。
〈論文タイトル〉
Cytokinin receptor AHK3 influences leaf size by modulating trans-zeatin-type cytokinin levels in xylem
〈著者〉
門田宏太1, 鈴木孝征2, 小嶋美紀子3, 竹林裕美子3, 神谷岳洋4, 木羽隆敏5, 榊原均6, 中川強7, 蜂谷卓士7
1:島根大学 大学院自然科学研究科
2:中部大学 大学院応用生物学研究科
3:理化学研究所 環境資源科学研究センター
4:東京大学 大学院農学生命科学研究科
5:岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(資源植物科学研究所)
6:名古屋大学 大学院生命農学研究科
7:島根大学 総合科学研究支援センター
〈掲載誌〉
Plant and Cell Physiology
DOI:https://doi.org/10.1093/pcp/pcag052
大学院生命農学研究科 榊原 均 教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~ck/