・原子核を高感度なセンサーとして用いる磁気共鳴測定により、カゴメ金属CsV3Sb5の内部で、原子スケールの電流の渦に由来する微小な磁場を検出しました。
・この結果は、電子が結晶格子上で輪を描くように自発的に流れる「ループ電流秩序」の微視的証拠であり、電子の流れが生み出す新しい磁性状態を示すものです。
・本成果は、高温超伝導体などでも長年議論されてきた隠れた電子秩序の理解を進め、量子材料に現れる新しい機能の探索に貢献すると期待されます。
東京大学大学院工学系研究科の末次 祥大 准教授、京都大学大学院理学研究科の北川 俊作 准教授、石田 憲二 教授、バージニア大学物理学科の浅場 智也 アシスタント・プロフェッサー、東京大学大学院新領域創成科学研究科の芝内 孝禎 教授、名古屋大学大学院理学研究科の紺谷 浩 教授、ロスアラモス国立研究所の松田 祐司 上級研究員らによる研究グループは、南京大学と共同で、カゴメ金属(注1)CsV3Sb5において、原子スケールの電流の渦がつくる新しい磁性状態の微視的な証拠を捉えました。この状態は、長年理論的に提案されてきたものの、その存在を実験的に確かめることは困難でした。
本研究では、CsV3Sb5の内部に生じる微小な磁場を検出し、電子が結晶格子上でミクロな円電流を作るループ電流秩序(注2)の証拠を確認しました。この現象は、電荷の濃淡が周期的に並ぶ「電荷密度波」(注3、図1左)と対比して、「虚数電荷密度波」(注4、図1右)と呼ばれ、電子の流れ方そのものが秩序化する新しい量子状態として理解されます。本成果は、量子材料に潜む新しい電子秩序の理解を大きく進めるものです。
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(注1)カゴメ金属
三角形が角を共有して並んだ「カゴメ格子」と呼ばれる原子配列を持つ金属のこと。カゴメ格子では、電子同士の相互作用や幾何学的な効果により、通常の金属では見られない電子状態が現れやすい。本研究で扱ったCsV3Sb5は、バナジウム原子がカゴメ格子を形成する。
(注2)ループ電流秩序
電子が物質中の原子配列に沿って、微小な輪を描くように循環して流れる秩序状態のこと。通常の電流のように物質全体を一方向に流れるのではなく、原子スケールの小さな閉じた経路を回るため、外から直接検出することが難しい。ループ電流により物質内部に極めて小さな磁場が発生するため、通常の磁石とは異なる、電子の流れに由来する磁性状態として捉えることができる。
(注3)電荷密度波
物質中の電子の密度が、空間的に周期的な濃淡を持って並ぶ状態のこと。通常の電荷密度波では、電子が多い場所と少ない場所が周期的に現れ、原子の並びや結合の強さも変化することがある。
(注4)虚数電荷密度波
通常の電荷密度波が電子の「濃淡」の周期的な変化として理解されるのに対し、虚数電荷密度波は電子の「流れ方」が周期的にそろった状態となる。この状態では、電子が原子スケールで輪を描くように流れるループ電流が自発的に生じる。
雑誌名:Nature Physics
題 名:Microscopic signatures of an imaginary charge density wave in a kagome metal
著者名:S. Suetsugu, F. Hori, M. Shibata, S. Kitagawa, K. Ishida, T. Asaba, S. Nakazawa, Q. Li, H. -H. Wen, T. Shibauchi, H. Kontani, and Y. Matsuda
DOI:10.1038/s41567-026-03339-8
URL:https://www.nature.com/articles/s41567-026-03339-8
大学院理学研究科 紺谷 浩 教授 /中沢 正剛(博士後期課程学生)
https://www.s.phys.nagoya-u.ac.jp/