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数物系科学

2026.06.29

巨大磁気嵐発達のカギは圧倒的な割合の地球起源重イオン~あらせ衛星が磁場変動の主役を直接観測~

【ポイント】

・連続した大型太陽フレア注1)によって20年ぶりに引き起こされた2024年5月の巨大磁気嵐注2)の磁場変動を担うリングカレント注3)のイオンの直接観測にジオスペース探査衛星「あらせ」注4)が成功。
・主要なイオンの供給源である太陽風注5)の密度が高かったにも関わらず、巨大磁気嵐の磁場変動を引き起こすリングカレントのイオンは地球起源イオン、特に重イオンが圧倒的割合(およそ85%)。
・巨大磁気嵐のエネルギー源は太陽風であるが、その磁場変動は加速された地球起源イオンが大部分を担っていることを観測的に実証。

 

名古屋大学宇宙地球環境研究所の北村 成寿 特任助教らの国際研究グループは、ジオスペース探査衛星「あらせ」の地球近傍の宇宙空間の観測データと、太陽風の同時観測データを解析し、2024年5月に発生した巨大磁気嵐時のリングカレントを担うイオンの大部分が地球起源の重イオンであることを示し、そのイオンの分布の時間変化、空間構造の同定に成功しました。
磁気嵐時のリングカレントは高エネルギーイオンが主に担っていることが知られ、このイオンの組成やエネルギーなどの特性の理解は磁気嵐の発達の理解に決定的な要素です。リングカレントのイオンは太陽風起源と地球起源のものの混合であることが知られていました。今回の巨大磁気嵐の駆動源の太陽風は高密度で、太陽風起源イオンもある程度寄与する可能性も予想されました。しかし、観測されたイオンは地球起源イオン、特に重イオンが圧倒的で太陽風起源イオンの寄与は極めてわずかでした。これは、地球大気からのイオン供給、加速過程が巨大磁気嵐の発達に圧倒的に重要であることを示しています。さらに、リングカレントのイオンの高圧部では磁場強度が40%も減少しており、背景磁場の大きな変形を通じて、高エネルギーの電子の消失への大きな影響も期待されます。本研究結果は、核となる重要過程の同定を通じて、発生頻度の低い巨大磁気嵐時の地球周辺の宇宙環境変動の理解、予測に貢献する貴重な事例です。
本成果は、2026年6月27日午前3時付で米国総合国際学術雑誌 『Science Advances』 に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)太陽フレア:
太陽表面付近に浮上してきた磁場によって引き起こされる、数分から数時間の時間スケールの増光現象。可視光、紫外線、X線など複数の波長域で観測される。強力なフレアは大型の黒点群の周囲でしばしば発生し、2024年5月には大きな黒点群で連続的に強力なフレアが発生し、噴出した物質が玉突き状態でまとまって地球に到来したと考えられている。


注2)2024年5月の巨大磁気嵐:
磁気嵐は中低緯度の地磁気が通常の状態から数時間から1日程度の時間をかけて減少し、その後数日かけて徐々にもとの強さまで回復していくという過程をとる地磁気擾乱現象。中低緯度での磁場強度の減少量によってその大きさが評価される。巨大磁気嵐の場合は通常時の地上磁場(赤道付近で約30000 nT)の1%を超える減少が観測され、人工衛星に障害が生じたり、地上で強い電流が流れたりして送電網に影響が及ぶこともある。2024年5月の巨大磁気嵐ではSYM-H指数最小値が−518 nTを記録し、SYM-H指数が使用可能な1981年以降2番目の規模の巨大磁気嵐であった。近い規模の磁気嵐としては2004年11月の磁気嵐(SYM-H指数最小値:−394 nT)以来約20年ぶり。(SYM-H指数は京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターにて導出されている。)

 

注3)リングカレント:
赤道環電流とも呼ばれる。地球の上空(地球半径6378 kmの数倍)に存在し、西向きの電流が卓越している。磁気嵐時に中低緯度の地磁気が減少するのは、主にリングカレントが発達するためである。その電流の主要な担い手は高エネルギー(数10 keV、キロ電子ボルト)のイオンで、太陽風起源のイオンと地球起源のイオンが混ざり合っている。地球の大気圏の上部ではイオンのエネルギーは0.1 eV = 0.0001 keV程度なので、地球大気圏上部を出発してからリングカレント領域に到達するまでの間に約10万倍程度に加速される必要がある。

 

注4)ジオスペース探査衛星「あらせ」:
人類の活動域となりつつある地球周辺の宇宙空間はジオスペースとも呼ばれる。「あらせ」衛星はJAXAの科学衛星で、このジオスペースにおいて、宇宙嵐の変動過程、放射線帯電子の加速・消失機構の解明を主目的としている。あらせ衛星に関するサイエンスセンターが、JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学宇宙地球環境研究所によって運営されており、主著者はその特任教員である。
(https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/)


注5)太陽風:
太陽からやってくるプラズマの流れ。主に水素イオンと電子から成り、二価(=電子を二つ失った)のヘリウムイオンや多価(=電子を多数失った)の重イオンも含まれる。磁気圏に侵入し磁気圏のプラズマの源として重要視されている。特に、密度が高い場合に多くのイオンが侵入すると考えられている。

 

【論文情報】

雑誌名: Science Advances
論文タイトル: Extreme dominance of Earth-origin heavy ions in the intense ring current near the Earth during the May 2024 super geomagnetic storm
著者:
北村 成寿   名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
山本 和弘   名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
横田 勝一郎  大阪大学大学院 理学研究科 准教授
笠原 慧    東京大学大学院 理学系研究科 准教授
松岡 彩子   京都大学 大学院理学研究科 教授
浅村 和史   宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授
海老原 祐輔  京都大学 生存圏研究所 教授
Kistler Lynn M. 米国ニューハンプシャー大学 教授
名古屋大学 宇宙地球環境研究所(研究時、クロスアポイントメント)
桂華 邦裕   東京大学大学院 理学系研究科 助教
新堀 淳樹   名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
堀 智昭    名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任准教授
三好 由純   名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授
家田 章正   名古屋大学 宇宙地球環境研究所 助教
Jun Chae-Woo 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
寺本 万里子   九州工業大学 大学院工学研究院 准教授
能勢 正仁    名古屋市立大学 大学院データサイエンス研究科 教授
平原 聖文   名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授
関 華奈子   東京大学 先端科学技術研究センター 教授
東京大学大学院 理学系研究科(兼任)
東尾 奈々   宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 主任
篠原 育    宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授

DOI: 10.1126/sciadv.aee1069

URL: https://doi.org/10.1126/sciadv.aee1069

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 北村 成寿 特任助教
https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/