・主に脳で発現し、精神疾患やがんとの関わりが報告されている特異な糖鎖注1)、ポリシアル酸注2)を合成する糖転移酵素としてST8Sia5を発見。
・生体膜脂質上の糖鎖に対するシアル酸転移酵素として知られるST8Sia5が、ST8Sia5自身にポリシアル酸を付加することを発見。
・ポリシアル酸付加がST8Sia5の細胞外への分泌や、酵素活性を制御することを解明。
名古屋大学大学院生命農学研究科の坂本 史哉 博士後期課程学生、佐藤 ちひろ 教授らの研究グループは、主に脳に存在し、精神疾患やがんなどの疾患との関わりが報告されている糖鎖「ポリシアル酸」を、ガングリオシド注3)合成酵素ST8Sia5が合成することを発見しました。
ポリシアル酸は、シアル酸という負電荷をもつ単糖が直鎖状につながった糖鎖で、神経の発達や脳機能に重要な役割を持つ分子です。これまでに、ポリシアル酸の異常は精神疾患やがんなどと関連することが報告されており、疾患に関わる重要な糖鎖分子として注目されています。ポリシアル酸は主にST8Sia2およびST8Sia4という2種類の酵素によって合成されることが知られてきました。しかし本研究では、ガングリオシドと呼ばれる糖脂質上のジシアル酸を合成する酵素として知られていたST8Sia5がタンパク質上のポリシアル酸を生合成すること、またST8Sia5には幹領域の長さの異なるS、M、Lのアイソフォームが存在し、特にその長鎖型アイソフォームであるST8Sia5Lが、自分自身にポリシアル酸を付加する「自己ポリシアリル化」という新たな性質を持つことを明らかにしました。さらに、自己ポリシアリル化されたST8Sia5は細胞外へ分泌され、その分泌には特定部位へのN型糖鎖注4)付加やメタロプロテアーゼによる切断が関わる可能性が示されました。また、分泌されたST8Sia5は、自己ポリシアリル化された状態では本来のガングリオシド合成活性が抑えられていましたが、ポリシアル酸を除去すると活性が回復しました。これにより、ポリシアル酸付加がST8Sia5の分泌と酵素活性の両方を制御することが明らかになりました。
本研究成果は、疾患関連糖鎖として発現の増減が注目されるポリシアル酸について、これまで知られていなかった新たな酵素の局在と活性制御機構を提唱するものです。今後、ポリシアル酸の合成や分泌の仕組みをさらに解明することで、精神疾患、神経疾患、がんなどにおける糖鎖異常の理解が進み、将来的には糖鎖を標的とした診断・治療法の開発に向けた基盤的知見になることが期待されます。
本研究成果は、2026年6月8日付国際学術雑誌『Journal of Biological Chemistry vol.302, Issue 7』に掲載され、オンラインで公開されました。
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注1)糖鎖:
糖が鎖状につながった分子の総称。タンパク質や脂質に結合して細胞の表面などに存在し、細胞同士の接着、情報伝達、免疫、感染、発生、分化など多くの生命現象に関わっている。核酸、タンパク質に続く「第三の生命鎖」とも呼ばれる。
注2)ポリシアル酸:
シアル酸という負電荷をもつ糖が8個以上、直鎖状につながった酸性糖鎖。主に脳に存在し、神経の新生、移動、神経回路形成、学習・記憶などに関わると考えられている。また、精神疾患やがんなどとの関連も報告されている。
注3)ガングリオシド:
シアル酸を含む糖鎖が脂質に結合した糖脂質の一種。細胞膜、特に神経細胞の膜に多く存在し、細胞同士の認識、情報伝達、神経機能の調節などに関わる。GQ1bはガングリオシドの一種であり、ST8Sia5によって合成される代表的な分子の一つである。
注4)N型糖鎖:
タンパク質中のアスパラギンというアミノ酸の側鎖に結合する糖鎖。タンパク質が正しく折りたたまれることや、細胞内で適切な場所へ運ばれること、安定に存在することなどに関わっている。本研究では、ST8Sia5上の特定のN型糖鎖が、ポリシアル酸の付加やST8Sia5の分泌に重要であることが示された。
雑誌名:The Journal of Biological Chemistry
論文タイトル:A novel autopolysialylation activity of the ganglioside sialyltransferase ST8Sia5 regulates its secretion and enzyme activity
著者:Fumiya Sakamoto, Rina Hatanaka, Masaya Hane, Di Wu, Ken Kitajima and Chihiro Sato
DOI: 10.1016/j.jbc.2026.113106
URL: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2026.113106
大学院生命農学研究科・糖鎖生命コア研究所 佐藤 ちひろ 教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~gls/