・膜貫通タンパク質の正常な折り畳みを補助する新しい品質管理機構を発見した。
・酵母注1)のPbr1タンパク質が小胞体において、折り畳みが難しい多重膜貫通タンパク質Fks1注2)に寄り添って、その新規合成を補助することを明らかにした。
・Pbr1は酸化還元酵素と配列相同性を有するが、推定される活性部位の配列が特殊であり、酵素反応非依存的あるいは非典型的な反応様式で働く可能性がある。
名古屋大学大学院理学研究科の小原 圭介 准教授は、長岡技術科学大学の大矢 禎一 特任教授、トロント大学のCharles Boone教授(理化学研究所環境資源科学研究センター チームディレクター)、ペンシルベニア大学、ローザンヌ大学、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所、北海道大学、東京大学、山形大学、京都大学アイセムスとの共同研究で、膜貫通タンパク質の折り畳みを補助する新しい仕組みを発見しました。
膜貫通タンパク質は、生体膜を介した物質や情報のやりとりなど、生命活動に欠かせない役割を果たします。膜を貫通する部分は、膜内部の疎水的環境にフィットする疎水性アミノ酸残基に富んでいます。ここに親水性残基が多く存在すると、タンパク質の構造不安定化が引き起こされ、その様な変異は多くの疾患と関わっています。
酵母のグルカン合成酵素Fks1は、細胞膜に局在する膜貫通タンパク質であり、細胞壁の主成分である親水性のグルカン鎖を細胞質領域で合成し、細胞膜を通過させて細胞外に放出します。そのため、複数の膜貫通領域によってグルカン鎖の通路を形成し、そこに親水性残基を多く配置しています。すなわち、Fks1は宿命的に折り畳みが難しいタンパク質であり、機能性と安定性との間のジレンマを抱えています。本研究グループは、小胞体タンパク質のPbr1が、小胞体において新規合成されているFks1と結合し、寄り添うようにしてその折り畳みを補助し、小胞体からの脱出を助けることを発見しました。これは、小胞体における新しい品質管理機構の発見です。
本研究の成果は、真菌感染症に対する創薬への応用が期待されます。本研究成果は、2026年7月14日(日本時間)に国際学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されました。
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注1)酵母:
ここでは出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を指す。パン作りや醸造で使われる菌類の一種。基本的な細胞の仕組みが、ヒトを含む真核生物と共通しているため、代表的なモデル生物として生命科学の研究に利用されている。
注2)Fks1:
酵母の細胞壁の主成分であるβ-(1,3)-グルカンを合成する酵素。細胞膜を17回膜貫通する膜貫通タンパク質であり、細胞質側にβ-(1,3)-グルカンを合成する活性ドメインを持つ。小胞体で翻訳されたのち、ゴルジ体を経て細胞膜に輸送されて機能する。抗真菌薬の一種であるエキノキャンディン系薬剤の標的としても知られている。
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル:Role of Pbr1, a putative oxidoreductase in the ER quality-control and folding of yeast Fks1 glucan synthase
著者:小原圭介*#(名古屋大学)、岡田啓希*(ペンシルベニア大学)、TAN Guihong*(トロント大学)、大貫慎輔(東京大学)、鈴木吾大(東京大学)、應武治香(東京大学)、久保佳蓮(東京大学)、GHANEGOLMOHAMMADI Farzan(東京大学)、石坂駿典(東京大学)、八代田陽子(理化学研究所)、大喜多葵(名古屋大学)、三城―佐藤恵美(名古屋大学)、鈴木邦律(東京大学)、田村康(山形大学)、芦根怜(京都大学)、池田幸樹(京都大学アイセムス)、嘉村巧 (名古屋大学)、VAN LEEUWEN Jolanda(ローザンヌ大学)、ANDREWS Brenda(トロント大学)、BI Erfei(ペンシルベニア大学)、野田展生(北海道大学)、BOONE Charles#(トロント大学、理化学研究所)、大矢禎一#(長岡技術科学大学)(*共同筆頭著者;#共同責任著者)
DOI: 10.1073/pnas.2612792123
URL: https://doi.org/10.1073/pnas.2612792123