医歯薬学
2026.07.13
細胞外小胞などの治療用ナノ粒子を患部で少しずつ放出する生体吸収性ナノファイバーシートの開発-次世代ドラッグデリバリーシステムによる新規治療法の実用化に期待-
・手術用吸収糸を用いて脂質ナノ粒子(LNP)や細胞外小胞(EV)を局所的かつ持続的に送達できる生体吸収性ナノファイバーシート(BNFシート)を開発
・乾燥時の毛細管現象を利用してナノ粒子をシート内に保持し、生体内で徐々に放出する独自機構を実現
・BNFシートの完全生体内吸収と炎症・線維化を伴わない、高い生体適合性を確認
・静脈内投与や腹腔(ふくこう)内投与と比較して、薬剤を病変部位へ効率よく送達させることに成功
・本技術によるmRNA医薬、核酸医薬、EV治療など幅広いナノ医薬への応用に期待
名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学の鈴木一弘客員研究者(現MD アンダーソンがんセンター博士研究員)、医学部附属病院産科婦人科の横井暁講師、大学院医学系研究科産婦人科学の梶山広明教授、名古屋大学大学院工学研究科の安井隆雄教授らの研究グループは、手術用吸収糸を用いて、脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle: LNP)※1や細胞外小胞(Extracellular Vesicle: EV)※2を患部へ局所的かつ持続的に送達する新しいドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)※3を開発しました。
近年、mRNA医薬や核酸医薬の送達技術としてLNPが注目されていますが、多くは全身投与であるため、病変部への到達効率が低く、副作用が問題となることがあります。本研究では、生体吸収性ナノファイバーシート(Bioabsorbable Nanofiber Sheet: BNFシート)※4にLNPを搭載することで、薬剤を病変部へ局所的かつ持続的に放出する技術を開発しました。卵巣がん腹膜播種(はしゅ)マウスモデルでは、抗がん剤カルボプラチン(Carboplatin)※5を搭載したLNPをBNFシートから持続的に放出させることで、少量の薬剤投与にもかかわらず高い抗腫瘍効果を示しました。さらに、本シートは生体内で完全に吸収され、炎症や線維化などの有害反応を認めませんでした。またLNPだけでなくEVも送達可能であることが確認されました。
本成果は、ナノ医薬と新規DDSを融合する新しい治療基盤技術として、がん治療のみならず、mRNA医薬や細胞外小胞治療など幅広い個別化医療への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年7月10日付(日本時間7月11日午前0時付)で国際学術雑誌『Cell Reports Physical Science』に掲載されました。
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※1 脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle: LNP)
脂質から構成されるナノサイズの粒子です。mRNAや核酸医薬、低分子薬剤などを内部に搭載し、標的細胞へ効率よく送達することができます。新型コロナウイルスmRNAワクチンにも利用されています。
※2 細胞外小胞(Extracellular Vesicle: EV)
細胞から分泌されるナノサイズの小胞です。DNA、RNA、タンパク質などを含み、細胞間の情報伝達を担います。近年は診断マーカーや治療キャリアとして注目されています。
※3 ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)
薬剤を必要な場所へ必要な量だけ効率よく届けるための技術です。薬効向上や副作用軽減を目的として開発されています。
※4 生体吸収性ナノファイバーシート(Bioabsorbable Nanofiber Sheet: BNFシート)
手術用吸収性外科縫合糸をナノファイバー化して作製したシート状材料です。薬剤やナノ粒子を保持しながら徐々に放出し、最終的には生体内で分解・吸収されます。
※5 カルボプラチン(Carboplatin)
白金製剤に分類される抗がん剤です。卵巣がんをはじめ多くの固形がん治療に使用されています。
雑誌名:Cell Reports Physical Science
論文タイトル:Bioabsorbable nanofiber sheets for localized and sustained delivery of therapeutic vesicles
著者:Kazuhiro Suzuki1, Akira Yokoi1,2,3*, Shota Kawaguchi4, Masami Kitagawa1, Eri Asano-Inami1,2, Hiroaki Yamada1,5, Kosuke Yoshida1,2, Taiga Ajiri6, Mikiko Iida6, Yuko Ishikawa6, Koki Aoyama6, Takeshi Yokoyama7, Yoshikazu Tanaka7, Yanbei Zhu8, Tomonari Umemura9, Mayu Suzuki10, Hirotaka Koga10, Hiroaki Kajiyama1, Takao Yasui4,6,11*
1.Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan
2.Institute for Advanced Research, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan
3.Japan Science and Technology Agency, FOREST, 4-1-8 Honcho, Kawaguchi, 332-0012, Japan.
4.Department of Life Science and Technology, Institute of Science Tokyo, Nagatsuta 4259, Midori-ku, Yokohama 226-8501, Japan
5.Department of Obstetrics and Gynecology, Kurume University School of Medicine, 67 Asahi-machi, Kurume 830-0011, Japan.
6.Department of Biomolecular Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Furo, Chikusa, Nagoya 464-8603, Japan.
7.Graduate School of Life Sciences, Tohoku University, 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980-8577, Japan
8.National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 1-1-1 Umezono, Tsukuba, Ibaraki 305-8563, Japan.
9.School of Life Sciences, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences, 1432-1 Horinouchi, Hachioji, 192-0392 Japan
10.SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research), The University of Osaka, 8-1 Mihogaoka, Ibaraki, Osaka 567-0047, Japan
11.Research Institute for Quantum and Chemical Innovation, Institutes of Innovation for Future Society, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
12.These authors contributed equally.
* Corresponding authors
DOI: 10.1016/j.xcrp.2026.103418
URL: https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2026.103418