・実験で得られた「通常なら失敗やばらつきとして見過ごされるデータ」から、思いがけない価値ある発見(セレンディピティ注1))につなげる新しい材料探索手法を実証した。
・データがどれだけ「通常と異なるか」を数値化する指標を導入し、新たな発見につながる可能性の高いデータを効率よく見つけ出す解析手法を開発した。
・超伝導注2)薄膜中のナノロッド注3)が上下方向にわずかにずれた新しいナノ構造を発見。この構造は、同条件で一般的に形成されるナノ構造と比べて、臨界電流密度(Jc)注4)が約2.9倍高いことを明らかにした。
・データ科学と実験を融合した「データ駆動セレンディピティ探索」を提案。AIやロボットと組み合わせることで、材料開発に限らず幅広い科学分野における発見を加速する新たな研究アプローチとして期待される。
名古屋大学大学院工学研究科の堀出 朋哉 准教授、伊藤 駿汰 博士後期課程学生、吉田 隆 教授の研究グループは、一般財団法人電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門の一瀬 中 シニアスペシャリストと共同で、データ科学と実験を組み合わせた「データ駆動セレンディピティ探索(データ科学を用いて、見過ごされていた発見の可能性を見つけ出す新しい探索手法)」により、超伝導薄膜中に、従来の探索では見過ごされていた新しいナノピンニング構造を発見しました。この構造は、同じ条件で一般的に形成されるナノ構造と比べて、臨界電流密度(Jc)が約2.9倍高いことを明らかにしました。
本研究では、実験データの中に埋もれた想定外の情報をデータ科学によって解析し、新たな発見につながる可能性の高いデータを抽出する「データ駆動セレンディピティ探索」を開発しました。これは、従来は見過ごされていたデータを科学的発見へとつなげる、新しい探索アプローチです。本手法を、核融合発電、電動航空機、MRIなど次世代エネルギー・医療技術を支える超伝導線材の開発に適用しました。その結果、超伝導薄膜中にこれまで報告されていなかった新しいナノピンニング構造を発見しました。
本成果は、これまで研究者の経験・洞察に頼ることの多かったセレンディピティを、データ駆動によって支援する新しい探索手法を提案したものであり、超伝導分野にとどまらず幅広い分野への展開が期待されます。
本研究成果は、2026年8月3日(日本時間)付で米国化学学会が発行するナノサイエンス分野を代表する国際学術誌『ACS Nano』に掲載されました。
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注1)セレンディピティ:
実験中の失敗や予期しない現象、想定外のデータなどをきっかけに、新たな発見につながること。科学史上、多くの重要な発見がセレンディピティによってもたらされてきた。
注2)超伝導:
物質を冷却していくと突然電気抵抗がゼロになる現象。抵抗ゼロで大電流を流せる超伝導体を用いて線材を作製し、超伝導マグネットなどに応用されている。
注3)ナノロッド:
直径数~数十ナノメートル程度の棒状のナノ構造。
注4)臨界電流密度(Jc):
超伝導体に電流を流すとある電流値までは抵抗ゼロを維持できるが、ある値以上の電流を流すと電圧が発生する。電圧が発生し始める電流を臨界電流(単位面積当たりで表したものを臨界電流密度という)。臨界電流密度が高いほど、多くの超伝導電流を流せるため、高性能の超伝導線材を作製できる。
雑誌名:ACS Nano
論文タイトル:Data-Driven Serendipitous Discovery of a Self-Organized Nanostructure for Enhanced Pinning in Superconducting Films
著者:Tomoya Horide, Shunta Ito, Ataru Ichinose, Yutaka Yoshida
DOI: 10.1021/acsnano.6c05455
URL: https://doi.org/10.1021/acsnano.6c05455
大学院工学研究科 堀出 朋哉 准教授, 主著者:吉田 隆 教授
https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/yoshidalab/index.html