・カゴメ金属で観測される自発回転するクーパー対~カイラル超伝導注1)~の解明に成功。
・カゴメ格子上を電子が循環運動する「ループ電流秩序注2)」がカイラル超伝導を引き起こす。
・超伝導ギャップ注3)の空間変調や不純物による状態変化など、一つの理論で統一的に説明。
名古屋大学大学院理学研究科の山川 洋一 講師、紺谷 浩 教授は、理化学研究所創発物性科学研究センター/開拓研究所の田財 里奈 理研ECL研究ユニットリーダーと共に、カゴメ(籠目)格子構造注4)のAV₃Sb₅ (A = Cs, Rb, K)で観測される特異な超伝導が、電子の「ループ電流秩序」によって自然に生じることを理論的に明らかにしました。
今回、研究チームは、ループ電流秩序と電荷秩序が共存するカゴメ格子模型を用いて超伝導状態を理論的に解析しました。その結果、ループ電流が電子対の向きを選択することで、時間反転対称性注5)が破れたカイラル超伝導と強い方向依存性を示すネマティック超伝導が自然に実現することを見いだしました。また、超伝導ギャップの 2×2 周期変調や、不純物の導入によって通常の s波超伝導へと変化する実験結果も、一つの理論で統一的に説明できることを示しました。本研究は、これまで個別に議論されてきた複数の実験結果を、ループ電流秩序を鍵とする一つの理論的枠組みで説明した初めての成果です。
今回の成果は、カゴメ金属における超伝導発現機構の理解を深めるとともに、時間反転対称性が破れた新奇超伝導体の設計や、低消費電力量子デバイスの開発に向けた新たな指針となることが期待されます。
本研究は、2026年7月27日付で科学雑誌『Nature Communications』にArticle in Press(早期公開版)として公開されました。今後、校正・組版を経た最終版に置き換えられる予定です。
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注1)カイラル超伝導:
カイラル超伝導とは、電子がペア(クーパー対)を組む際に軌道角運動量を持つ、特殊な超伝導の状態。カイラル状態では「右巻き」と「左巻き」の回転状態が時間を逆向きにすると入れ替わるため、自発的に時間反転対称性を破る。
注2)ループ電流秩序:
電子相関によって電子の飛び移り積分が位相を持つとき、時間反転対称性が破れて、ナノスケールのループ電流が流れる。F.D.M. Haldaneによりハニカム格子に対して導入され、その後銅酸化物超伝導体において長年精力的に研究されてきたが、最近カゴメ金属において有力な実験的観測が報告されている。
注3)超伝導ギャップ:
超伝導状態で電子を励起するために必要となるエネルギーの隔たり(エネルギーギャップ)。その大きさや方向依存性は、超伝導状態の性質を反映する。
注4)カゴメ格子構造:
竹籠の網目模様に類似した2次元格子構造(図1)。カゴメ格子金属の強い幾何学フラストレーションにより、単純なスピン秩序や電荷秩序が抑制される。このためカゴメ格子金属では電子相関が強い金属領域が安定化し、新奇な金属量子相の舞台となる。
注5)時間反転対称性:
時刻の向きを逆転(t→-t)させる操作のことを時間反転と呼ぶ。時間反転により元に戻る状態のことを、時間反転対称性を持つという。ループ電流秩序は時間反転により回転方向が変わるため、時間反転対称性を破っている。
雑誌名:Nature Communications誌
論文タイトル:Nematic and chiral superconductivity emerging within the loop-current phase in kagome metals
著者:田財里奈(理化学研究所)、山川洋一(名古屋大学)、紺谷浩(名古屋大学)
DOI: 10.1038/s41467-026-75259-3
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-75259-3