・右巻きと左巻きのらせん構造を高速で行き来する動的な[4]ヘリセン注1)を連結した、ポリ[4]ヘリセンナノリボンを設計・合成した。
・隣り合う[4]ヘリセンのらせんの巻き方向が連動してそろうことを見いだした。
・天然由来のキラル注2)溶媒の右手型と左手型を使い分けることで、ポリ[4]ヘリセンナノリボンの巻き方向と、円偏光発光注3)の回転方向を切り替えられることを実証した。
・光・電子デバイス、量子材料などへの応用、新しいキラル炭素材料の開発への貢献が期待される。
名古屋大学大学院工学研究科の井改 知幸 教授、稲垣 隼人 博士前期課程学生、沖 光脩 助教、𠮷田 真也 助教、Jenny Pirillo 特任助教、名古屋大学脱炭素社会創造センターの土方 優 特任准教授、国立清華大学(台湾)の八島 栄次 教授(玉山学者)らの研究グループは、環境に応答してらせんの巻き方向と円偏光発光能を可逆的に切り替えられるグラフェンナノリボン注4)「ポリ[4]ヘリセンナノリボン」の開発に成功しました。
グラフェンナノリボンは、炭素原子が細長い帯状につながったナノ材料であり、優れた電子・光学特性を示すことから、次世代の半導体や発光材料として期待されています。なかでも、らせん構造をもつものはキラル炭素材料注5)として注目されていますが、外部刺激による右巻きと左巻きの構造制御は実現していませんでした。
本研究では、独自の合成法を用いて、右巻きと左巻きの間を高速で行き来する小さならせん分子[4]ヘリセンを連結した、らせん状のグラフェンナノリボン「ポリ[4]ヘリセンナノリボン」を合成しました。分子内に働く協同効果により、隣接する[4]ヘリセンが同じ巻き方向にそろう傾向を示すことを明らかにしました。さらに、天然由来のキラル溶媒であるβ-ピネンに溶かし、溶媒の右手型と左手型を使い分けることで、ナノリボン全体のらせんの巻き方向を制御でき、それに伴って右円偏光発光と左円偏光発光を切り替えられることを実証しました。本成果は、光・電子デバイス、量子材料、スピントロニクス注6)への応用に加え、「動くグラフェンナノリボン」を活用した新しいキラル炭素材料の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2026年8月15日付で英国科学誌『Nature Communications』に速報版(Article in Press)として掲載されました。
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注1)ヘリセン:
複数のベンゼン環がらせん状に連なった分子。右巻きと左巻きの構造があり、代表的なキラル分子として知られる。右巻きと左巻きの間を相互に変換できるものを動的ヘリセンという。本研究では、この動的な性質をもつ[4]ヘリセンを利用した。
注2)キラル、キラリティ:
キラリティとは、右手と左手のように、互いに鏡像関係にありながら重ね合わせることができない性質をいう。「キラル」は、そのような性質をもつ分子や構造を表す形容詞である。
注3)円偏光発光:
右回りまたは左回りに回転しながら進む光を発する現象。三次元ディスプレイや、セキュリティ技術、光通信、量子情報技術などへの応用が期待される。
注4)グラフェンナノリボン:
グラフェンを数ナノメートル幅の細い帯状にした炭素材料。幅や端の構造によって電子や光の性質を精密に制御できる。
注5)炭素材料:
炭素を主成分とする材料の総称。ダイヤモンドや黒鉛(グラファイト)、グラフェン、カーボンナノチューブ、グラフェンナノリボンなどが含まれ、軽量で高い強度や優れた電気・光学特性を示す。キラル炭素材料は、キラルな構造をもつ炭素材料であり、キラリティに由来する特徴的な光学機能や電子機能を示す。
注6)スピントロニクス:
電子がもつ電気的な性質(電荷)と磁石のような性質(スピン)の両方を利用する電子工学技術。高速かつ省電力な次世代情報処理技術として期待されている。
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Dynamic helical poly[4]helicene nanoribbon
著者:井改 知幸*(名古屋大学)、稲垣 隼人(名古屋大学)、沖 光脩(成蹊大学)、𠮷田 真也(名古屋大学)、Jenny Pirillo(名古屋大学)、土方 優(名古屋大学)、八島 栄次*(国立清華大学)(*責任著者)
DOI: 10.1038/s41467-026-76724-9
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-76724-9