生物学
2026.10.28
蚊のオスが「メスの羽音」に惹かれる理由を解明 ~行動の性差を生む遺伝子 fruitless がオスの耳をつくる~
・約100年前から知られる蚊の行動の性差に、鍵となる遺伝子 fruitless 注1)を同定。
・fruitless が機能しないオスは、夕暮れに集まらずメスの羽音にも誘引されない。
・その耳は音をほとんど増幅できず、脳へ届く聴覚信号も大きく減っていた。
・fruitless とその下流の遺伝子は、蚊の防除に向けた新たな標的となりうる。
名古屋大学大学院理学研究科/トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の ロー ユーミン 博士研究員、マシュー スー 助教、上川内 あづさ 教授らの研究グループは、米国アイオワ大学の Eberl Daniel 教授らとの共同研究で、遺伝子 fruitless(フルートレス)が、デング熱などを媒介するネッタイシマカのオスに特異的な聴覚系を成り立たせることで、メスの羽音に誘引されるというオス特有の繁殖行動を成立させていることを発見しました。
蚊のオスは夕暮れに群れをつくり、飛来したメスの羽音を聞きつけて交尾します。一方で、メスはオスの羽音には誘引されません。約100年前から知られるこの際立った行動の性差を生み出す遺伝子は、これまで不明でした。本研究グループは、fruitless のオス型タンパク質 FruM を欠くオスが、夕暮れに他のオスと集まる行動を示さずメスの羽音への誘引も完全に失うこと、そしてその背景に聴覚系の大きな機能変化があることを見いだしました。FruM を欠くオスの耳は、メスの羽音を能動的に増幅する仕組みを失い、脳へ届く聴覚情報も大きく減っていました。
オスは聴覚を頼りにメスを見つけて交尾するため、その聴覚を支える fruitless やその下流の遺伝子を標的とすることで、蚊の繁殖を抑える新たな防除法につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年10月28日午前3時(日本時間)付で生命科学分野の国際学術誌『PLOS Biology』に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)fruitless(フルートレス):
昆虫の性決定経路の下流に位置する遺伝子。性そのものを決めるのではなく、神経系の雄性化を通じて行動の性差を生み出す。転写因子をコードし、雌雄で異なるスプライシングを受けるため、オスでのみ機能的なタンパク質 FruM がつくられる。
雑誌名:PLOS Biology
論文タイトル:fruitless is essential for male Aedes aegypti mosquito attraction to female flight sounds
(fruitless はネッタイシマカのオスがメスの羽音に誘引されるために必須である)
著者:YuMin M. Loh、Alberto J. Thornton、WenWei Loh、Tai-Ting Lee、Wan-Tze Chen、Yifeng Y. J. Xu、Jia Xin Yap、土屋 雄一朗、Daniel F. Eberl、Matthew P. Su、上川内 あづさ
所属:名古屋大学大学院理学研究科、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)、名古屋大学高等研究院、米国アイオワ大学生物学部
※ Matthew P. Su(名古屋大学大学院理学研究科 助教)と上川内 あづさ(同 教授)は共同責任著者
DOI:10.1371/journal.pbio.3004041
URL:https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3004041
※【WPI-ITbMについて】(https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
大学院理学研究科・トランスフォーマティブ生命分子研究所 上川内 あずさ 教授
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~NC_home/index2.htm