工学
2026.10.27
イネ発芽過程のプラズマ照射が収穫期まで影響〜酒米種子で成長促進効果を確認、作物栽培への応用に期待〜
・酒造好適米 (酒米) 品種「山田錦」の発芽過程に着目し、吸水後の種子へプラズマ照射すると初期成長が促進された。この時、胚では成長に関与する植物ホルモン群の濃度が増加することが明らかとなった。
・これらのプラズマ照射種子を人工気象器“Smart Plant”で収穫期まで生育すると、発芽時にみられた成長促進効果がその後の生育段階にもみられ、出穂時期にも影響することが示された。
・低温プラズマ処理注1)は、新たな種子プライミング注2)法として農業への応用が期待される。
近年、大気圧低温プラズマ(低温プラズマ)を医療・農業などのバイオ分野へ応用する研究が盛んに行われており国内外から注目されています。名古屋大学低温プラズマ科学研究センターの堀 勝 特任教授、田中 宏昌 教授、橋爪 博司 特任講師らの研究グループは、富士通クライアントコンピューティング株式会社 (FCCL) との共同研究で、水稲栽培における低温プラズマ処理が玄米の収量や品質に有効であることを見出しています注3)。本研究では酒造好適米(酒米)品種「山田錦」の種子発芽の過程に着目し、給水後の種子に低温プラズマを照射することにより初期成長が促進されることを見出しました。また、同大学大学院生命農学研究科や理化学研究所との連携により、胚においてサイトカイニンやオーキシンといった植物の成長に関与するホルモン群の濃度が増加することが明らかとなりました。さらに、それらを人工気象器で収穫期まで生育すると、発芽時にみられた成長促進効果がその後の生育段階にもみられ、出穂までの日数が短縮するなど、収穫期まで影響することが示されました。すなわち、発芽時の種子へのプラズマ処理がその後の生育にも影響を及ぼす可能性が示されました。これらの結果は、低温プラズマ処理が種子発芽のプライミングに有効である可能性を示すものです。今後、ICT農業(スマート農業)注4)と大気圧低温プラズマ(低温プラズマ)注5)を融合することで、農作物の安定的な生産に向けた新たな農業技術への応用が期待できます。
本研究成果は、2026年8月4日付学術誌「Scientific Reports」にオンライン速報版が掲載(最終版は2026年10月5日掲載)されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)低温プラズマ処理:
常温常圧下でのプラズマ生成の実現によって、生体へのプラズマ処理も可能となった。本研究で実施した、生体にプラズマを直接照射する方法(直接照射)のほかに、水や溶媒にプラズマ照射して調製されたプラズマ活性化溶液による処理(間接照射)といったさまざまなアプローチが可能であり、農業・医療などの分野へのプラズマ技術の応用が期待されている。
注2)種子プライミング:
発芽前の種子にあらかじめ一定の処理を行うことで、発芽に関わる生理機能を活性化し、発芽やその後の初期成長を促す種子処理技術。
注3)水稲栽培における低温プラズマ処理が玄米の収量や品質に有効である:
2023.9.26プレスリリース
「低温プラズマ処理による酒米収量・品質の向上
~「ICT×プラズマ」を用いたスマート先進農業へ向けて~」
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/09/-ict.html
注4)ICT農業(スマート農業):
ロボット技術や情報通信技術 (ICT) を活用した農業技術のこと。ロボットの利用によって農作業が省力化・精密化され、また、気象や生育状況などのデータを活用・解析することで農作物の生育が予測され施肥や薬剤散布の最適化により収量や品質の向上が可能となる。これらの新しい技術は、従来の熟練就農者の経験に基づく栽培手法もデータ化することで後継者の育成、農業技術の継承も円滑化されると期待できる。
注5)大気圧低温プラズマ (低温プラズマ):
プラズマは固体・液体・気体に続く物質の第4の状態といわれており、近年、電子温度に対しガス温度が常温 (に近い) 状況でプラズマを発生することが可能となった。これによりさまざまな産業への応用が進められている。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Plasma irradiation of rice seeds activates embryo physiology and promotes growth throughout all developmental stages
著者:
Hiroshi Hashizume, Hidemi Kitano, Hiroko Mizuno, Akiko Abe, Mikiko Kojima, Yumiko Takebayashi, Genki Yuasa, Satoe Tohno, Hiromasa Tanaka, Yoji Hirosue, Masaaki Mizuno, Hitoshi Sakakibara, Masayoshi Maeshima, and Masaru Hori
DOI: 10.1038/s41598-026-62909-1
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-026-62909-1