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医歯薬学

2026.10.29

肺神経内分泌がんがセロトニンを利用して抗腫瘍免疫応答を抑える仕組みを解明―免疫療法への治療抵抗性の克服につながることが期待―

【ポイント】

・肺神経内分泌がんの一つである小細胞肺がんでは、DLL3を標的とするT-cell engagerなどの免疫療法が用いられるようになっていますが、十分な治療効果が得られない患者さんも多く、その仕組みは明らかではありませんでした。
・本研究において、DLL3を高発現する肺神経内分泌がん細胞が、神経伝達物質であるセロトニンを産生する仕組みを明らかにしました。
・また、マウス実験において、がん細胞が産生するセロトニンがマクロファージという免疫細胞に作用し、がんを攻撃するCD8陽性T細胞の働きを弱めることで、免疫チェックポイント阻害薬やT-cell engagerの効果を低下させることがわかりました。
・マウス実験において、セロトニンの産生やその受容体HTR7の働きを抑えることで免疫療法の効果が高まり、免疫療法への治療抵抗性の克服につながることが期待されます。

 

名古屋大学と国立がん研究センター、京都大学、近畿大学および公益財団法人がん研究会らの研究チームは、小細胞肺がんなどの肺神経内分泌がんが、神経伝達物質セロトニンを利用して免疫細胞の働きを抑え、がん免疫療法に抵抗性を示す仕組みを明らかにしました。
肺神経内分泌がんの一つである小細胞肺がんでは、免疫チェックポイント阻害薬注1やDLL3注2とT細胞表面のCD3の両方に結合し、T細胞をがん細胞へ誘導する治療薬「DLL3×CD3二重特異性抗体(T-cell engager注3)」が新たな治療選択肢となっています。しかし、DLL3が発現していても十分な効果が得られない例があり、その理由は明らかではありませんでした。
研究チームは、DLL3を高発現するがん細胞ではセロトニン合成酵素TPH1の発現が高く、がんの組織内に免疫抑制性マクロファージ注4が多いことを見いだしました。さらに、がん細胞が産生するセロトニンがHTR7を発現するマクロファージに作用し、CD8陽性T細胞注5の機能を抑えることを、細胞実験とマウス実験で確認しました。また、がん細胞のセロトニン産生やマクロファージのHTR7を遺伝学的・薬理学的に阻害することで、マウス実験において免疫療法の効果が高まりました。本成果は、神経伝達物質であるセロトニンと免疫細胞との相互作用に着目した新たな治療戦略の開発につながる可能性があります。本研究は、米国科学誌「Cancer Cell」に米国東部時間2026年10月22日(日本時間2026年10月23日)掲載されました。本研究は、名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 西川 博嘉 教授(国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野長、先端医療開発センター 免疫トランスレーショナルリサーチ分野 分野長、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター がん免疫多細胞システム制御部門 教授を兼任)らの研究チームで行いました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1.免疫チェックポイント阻害薬
免疫細胞には、過剰な免疫反応を防ぐための「免疫チェックポイント」と呼ばれるブレーキ機構があります。がん細胞はこの仕組みを利用し、免疫細胞からの攻撃を逃れます。免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを解除し、T細胞によるがん細胞への攻撃を回復させる薬剤です。
注2.DLL3
DLL3は、細胞の分化や増殖に関わるNOTCHシグナルを調節するタンパク質です。神経内分泌がんである小細胞肺がんや大細胞神経内分泌がんの細胞表面に多く発現します。
注3.T-cell engager
T-cell engagerは、がん細胞に発現する分子と、T細胞に発現する分子の両方に結合する薬剤です。がん細胞とT細胞を物理的に近づけることで、T細胞を活性化し、がん細胞への攻撃を促す新しいがん免疫療法として開発が進められています。
注4.マクロファージ
マクロファージは、体内に侵入した異物や死んだ細胞などを取り込み、除去する免疫細胞です。一方、がん組織内に存在するマクロファージは、周囲からの刺激によって性質が変化します。T細胞の働きを抑え、がんの増殖や治療抵抗性を促す「免疫抑制性マクロファージ」も存在します。
注5.CD8陽性T細胞
CD8陽性T細胞は、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を認識し、直接攻撃して排除する免疫細胞です。「キラーT細胞」とも呼ばれ、がんに対する免疫応答の中心的な役割を担います。その働きが抑えられると、がんが免疫から逃れやすくなり、免疫療法の効果も低下します。

 

【論文情報】

雑誌名:Cancer Cell
タイトル:Lung neuroendocrine cancer induces immunosuppressive macrophages via serotonin to drive resistance to the T cell engager tarlatamab
著者:Kotaro Nomura†, Tomoyo Fukami†, Shinichiro Kato, Shunya Tanaka, Akito Fukuda, Yuki Koike, Masaki Kondo, Kazuhiro Kumagai, Takuma Irie, Genki Okumura, Tetsuro Taki, Shingo Sakashita, Masayuki Shirasawa, Tatsuya Yoshida, Kouya Shiraishi, Ryo Ariyasu, Yuki Takeyasu, Takahiro Niimi, Tetsuya Sakai, Masahiro Torasawa, Hiroaki Kanemura, Shin Saito, Takuo Hayashi, Akinori Kanai, Kazuya Takamochi, Tomohiro Haruki, Keiju Aokage, Hitomi Nishinakamura, Shohei Koyama, Genichiro Ishii, Yutaka Suzuki, Yasushi Goto, Makoto Nishio, Kenji Suzuki, Yasuhiro Tsutani, Yasushi Yatabe, Hiroyuki Mano, Masahiro Tsuboi, Shogo Kumagai*, and Hiroyoshi Nishikawa*$ (†筆頭著者、*責任著者)
$Lead Contact:名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 教授 西川 博嘉(国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野長、先端医療開発センター 免疫トランスレーショナルリサーチ分野 分野長、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター がん免疫多細胞システム制御部門 教授)
DOI:10.1016/j.ccell.2026.09.016

URL:https://doi.org/10.1016/j.ccell.2026.09.016
掲載日:2026年10月22日

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 西川 博嘉 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/micro-immunology/immunology/

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