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生物学

2026.10.29

真核生物に最も近縁なアーキア、細胞の中は単純・外は複雑―突起を介した共生から、私たちの祖先像に迫る―

【ポイント】

・複雑な構造を持つ生命(真核生物)に最も近縁なアーキア※1群「ヘイムダルアーキア」※2を、世界で初めて分離・培養することに成功した。これにより、生命がどのように複雑化していったのか、その進化過程を実験的に調べることが可能となった。
・本アーキアの細胞内部は単純であった一方、外側には長い突起や膜小胞といった複雑な構造が形成されていた。また、突起を介して他の微生物に付着し、共生する姿が確認された。これらの結果は、生命の複雑さは、まず祖先となったアーキアの細胞外で発達し、他の微生物との共生・融合を通じて真核生物へと進化する過程で、内部化された可能性を示している。
・今回培養したアーキアにとって酸素は有毒だが、真核生物の大部分は酸素を必要とする。本研究では、これらのアーキアが酸素に対する複数の解毒システムを持つことに加え、酸素を消費するバクテリアと共存させることで、培養開始時に微量の酸素が存在する条件でも生育できることがわかった。この結果は、多様な微生物との共生が、酸素を嫌うアーキアから酸素を必要とする真核生物への進化を支えた可能性を示している。

 

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村知彦、以下「JAMSTEC」という。)生命地球科学研究部門の井町寛之上席研究員と延優(Masaru K. Nobu)主任研究員、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らは、私たちヒトを含む真核生物に最も近縁なアーキア群「ヘイムダルアーキア」に属する2株を、世界で初めて分離・培養することに成功しました。さらに、その細胞構造や生理・代謝を詳しく調べることで、真核生物の祖先となったアーキアの姿や生き方を、これまでで最も高い確度で描き出しました。

 

真核生物がどのように誕生したのかは、生命科学における大きな謎の1つです。現在では、アーキアの一群である「プロメテアーカエオータ門(旧称: アスガルドアーキア)」に属するアーキアが、ミトコンドリアの祖先となるバクテリアと共生・融合することで誕生したとする説が有力です。私たちは2020年に、深海の泥からこの門に属するアーキア(MK-D1株)の分離・培養に世界で初めて成功し、その細胞構造や代謝に基づいて、真核生物誕生の新しい仮説「E3モデル」を提案しました(2020年1月16日既報 文献1および2024年7月12日既報 文献2)。

 

その後、環境中の微生物ゲノムや進化的な関係を調べる研究が進み、この門の中でも「ヘイムダルアーキア」が真核生物に最も近縁であることが示されました。ヘイムダルアーキアは、すでに真核生物のような複雑な細胞内部構造(核や小胞体など、膜で囲まれた細胞内小器官)や酸素呼吸能を持つと予測する研究者もいましたが、実際の姿や生き方は不明でした。本研究では、戦略的な培養手法を用いてヘイムダルアーキアに属する2株を分離・培養し、これらの特徴を直接調べました。

 

その結果、培養株には真核生物のような複雑な細胞内構造は全く観察されず、細胞内部は単純でした。一方、細胞の外側には長い突起や膜小胞といった複雑な構造が形成され、突起を使って他の微生物に付着し、共生する姿が確認されました。また、培養株は無酸素環境で生きる嫌気性生物でしたが、そのうち1株は、酸素を消費するバクテリアを共存させると、培養開始時に微量の酸素が存在する環境でも生育できることが明らかになりました。

 

これらの結果は、真核生物の祖先となったアーキアが、単純な細胞内部構造を持ちながら、細胞の外側に長い突起などの複雑な構造を発達させ、他の微生物と積極的に共生していたことを示唆します。また、ミトコンドリアの祖先バクテリアとの初期の共生は低酸素環境で始まり、酸素の解毒がその成立を支えた可能性も示しています。つまり、嫌気性であったアーキアが、他の微生物との共生によって毒である酸素の影響を軽減しながら、やがてミトコンドリアの祖先バクテリアを細胞内に取り込み、その後、細胞内部を複雑化させることで、真核生物が誕生したと考えられます。

 

今回得られた培養株は、「真核生物の起源」を実験的に検証するための重要なモデル生物となります。今後、これらの培養株を用いて細胞構造や共生の仕組みを詳しく調べることで、単純なアーキアから複雑な真核生物が誕生した過程の解明が進むと期待されます。

 

本成果は「Nature」に、2026年10月28日(ロンドン時間)/10月29日(日本時間)付で掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

◆詳細(プレスリリース英文)はこちら

 

【用語説明】

※1 アーキア
古細菌とも呼ばれる。生物の主要系統の1つであり、バクテリア (細菌)、真核生物と共に全生物界を三分している。アーキアとバクテリアは細胞内のDNAを包む核膜を持たない原核生物で、基本的には単細胞の微生物である。私たちヒトを含む真核生物はアーキアの中から進化して誕生したと考えられている。

 

※2 ヘイムダルアーキア (Heimdallarchaeia)
真核生物の起源に深く関わるとして注目されている「プロメテアーカエオータ門 (旧称: アスガルドアーキア)」に属するグループの1つ。ゲノム情報に基づく分子系統解析により、ヘイムダルアーキアの中から真核生物が誕生したと考えられている。

 

<関連プレスリリース・コラム>

文献1:真核生物誕生の鍵を握る微生物「アーキア」の培養に成功 -生物学における大きな謎「真核生物の起源」の理解が大きく前進-
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20200116/

 

文献2:「しんかい6500」で深海まで行って生物の新「界」を発見した話
https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20240712/

 

 

【論文情報】

タイトル: Eukaryotes’ closest relatives are internally simple syntrophic peptidotrophic archaea
(真核生物に最も近縁なアーキアは、単純な細胞内部構造を持ち、他の微生物と共生してペプチドを栄養源として生きる)

著者: 井町寛之1*、延優 (Masaru K. Nobu)1*、石井俊一1、橋口裕樹2、平片悠河3、細木直樹4、生田哲朗1、伊左治雄太5、宮田真人6、宮崎征行1、諸野祐樹5,7、村田和義8,9、中川聡1,9,10、成田哲博11、小河原美幸1、岡田賢1、齊藤由美1、酒井早苗1、島村繁1、田原悠平6、高木善弘1、高野淑識5、田角栄二1、植松勝之12、吉村寿紘5、高井研1,9
*両著者はこの研究に同等に貢献しています。

 

所属
1.海洋研究開発機構 生命地球科学研究部門
2.日本電子株式会社 EM事業ユニット EMアプリケーション部
3.産業技術総合研究所 バイオものづくり研究センター
4.日本電子株式会社 EM事業ユニット EM第2技術開発部
5.海洋研究開発機構 物質地球科学研究部門
6.大阪公立大学 大学院理学研究科
7.海洋研究開発機構 高知コア研究所
8.自然科学研究機構 生理学研究所
9.自然科学研究機構 生命創成探究センター
10.京都大学 大学院農学研究科
11.名古屋大学 大学院理学研究科
12.株式会社マリン・ワーク・ジャパン 地球科学部

DOI: 10.1038/s41586-026-11170-7

URL: https://doi.org/10.1038/s41586-026-11170-7

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 成田 哲博 准教授
http://str.bio.nagoya-u.ac.jp:8080/Plone/6210753030eb30fc

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