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数物系科学

2026.10.21

富士通、名古屋大学、JAMSTEC、NICTら、太陽高エネルギー粒子シミュレーションの精度を高めるパラメータを、 数理最適化で自動決定する技術を開発

【ポイント】

富士通株式会社(注1)(以下、富士通)、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学(注2)(以下、名古屋大学)、国立研究開発法人海洋研究開発機構(注3)(以下、JAMSTEC(ジャムステック))、国立研究開発法人情報通信研究機構(注4)(以下、NICT(エヌアイシーティー))を中心とする研究グループ(注5)は、宇宙飛行士の被ばくや人工衛星の障害の原因となる太陽高エネルギー粒子(SEP)(注6)の到来を計算する物理シミュレーションの精度を高めるパラメータを、5機の探査機による観測データから客観的かつ再現可能な方法で自動決定する世界初(注7)の技術(以下、本技術)を開発しました。本成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました(注8)。本研究には、名古屋大学から宇宙地球環境研究所(ISEE)の 岩井一正教授と草野完也特任教授が参画しました。
本技術を太陽高エネルギー粒子の到来予測に用いることにより、人工衛星の故障の発生を抑え、衛星データの利活用の促進が期待できます。また、被ばくリスクを低減できることから宇宙飛行士の安全を確保し、将来的には月面基地活動による新たな産業創出へ寄与します。

 

太陽高エネルギー粒子は電気を帯びており、太陽から伸びる磁力線に沿って進みながら散乱されるため、その到来を予測するのは非常に困難です。これまでは、過去に起きた現象の観測を再現できるよう、専門家が経験と試行錯誤でパラメータの値を決めてきました。しかし、この方法では、値の根拠を客観的に示して同じ手順で再現することが難しいという課題がありました。そこで今回、ブラックボックス数理最適化(注9)を用いて、この設定を自動化しました。具体的には、太陽高エネルギー粒子の量と到達時刻を計算する物理シミュレーションについて、日欧国際共同プロジェクトである水星探査機BepiColomboを含む5機の探査機による観測結果との誤差が小さくなるよう、19個のパラメータを自動で設定すること(注10)に成功しました。本技術の中核は、富士通が構築した「Fujitsu Solar Energetic particle Intelligent Tuning and Evaluation Network」(以下、SEITEN)(注11)です。SEITENは、名古屋大学宇宙地球環境研究所が開発し、NICTが運用する磁気流体力学(MHD)シミュレーション(注12)SUSANOO(注13)と、JAMSTECが開発した粒子加速・輸送モデルSEPIF(注14)を連携させ、ブラックボックス数理最適化によって、粒子の加速と輸送に関わるパラメータを自動決定できる技術です。なお、MHDシミュレーションのパラメータ設定のために名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)のIPS(惑星間空間シンチレーション)(注13)観測データが活用されました。

 

研究グループは、本技術により、複数の探査機による観測データを基に、粒子の散乱の強さなどを表す複雑なパラメータ設定の自動化を実現するとともに、パラメータの空間分布の推定を可能にしました(注15)。これは、太陽高エネルギー粒子の量と到達時刻を高い精度で予測する技術の実用化に向けた重要な一歩となります。

 

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【用語説明】

注1 富士通株式会社:本店 神奈川県川崎市、代表取締役社長 時田 隆仁。

 

注2 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学:
所在地 愛知県名古屋市、総長 杉山 直。国立大学法人東海国立大学機構が設置。本研究には、本学宇宙地球環境研究所(ISEE)の研究者が参画。

 

注3 国立研究開発法人海洋研究開発機構:所在地 神奈川県横須賀市、理事長 河村 知彦。

 

注4 国立研究開発法人情報通信研究機構:所在地 東京都小金井市、理事長 大野 英男。

 

注5 本研究の実施体制:
富士通、名古屋大学 宇宙地球環境研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人情報通信研究機構に加え、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、計測・実験素粒子物理学研究所(LIP:Laboratory of Instrumentation and Experimental Particle Physics)、リスボン大学(ポルトガル)が参加。

 

注6 太陽高エネルギー粒子(SEP:Solar Energetic Particle):
太陽フレアやコロナ質量放出にともなって加速され、惑星間空間に放出される高エネルギーの陽子や電子。本研究では、このうち陽子を対象とした。

 

注7 「世界初」の根拠(富士通調べ、2026年10月時点):
本技術の新しさは、以下の3つの条件を同時に満たす点にある。
①複数の探査機による同時観測を拘束条件とすること(方向ごとに異なるパラメータを見分けるため)。
②MHDシミュレーションと粒子加速・輸送モデルを結合したシミュレーションであること(CMEが作る衝撃波の強さや形を粒子の加速の計算に反映させるため)。
③粒子の加速と輸送に関わるパラメータを、人の判断を介さずにブラックボックス数理最適化で自動決定すること。

 

注8 論文情報:
Hiroyuki Tako Ishikawa et al., “Automated Optimization of Solar Energetic Particle Acceleration and Transport Parameters Against Five-Spacecraft Observations of the 9 October 2021 Event”, Scientific Reports(2026年). DOI: 10.1038/s41598-026-70869-9(2026年10月20日掲載)

 

注9 ブラックボックス数理最適化:
目的関数の内部構造を仮定せず、試行と評価の繰り返しから良い解を探索する手法。本技術では準モンテカルロ法(Sobol’列)による広域探索と、ベイズ最適化の一種であるTPE(Tree-structured Parzen Estimator)による集中探索を組み合わせた。実装にはオープンソースの最適化フレームワークOptunaを用いた。

 

注10 19個のパラメータの自動設定:
対象とした19個は、散乱の強さを表す平均自由行程(磁力線ごとに7個)と、衝撃波で加速に取り込まれる粒子の割合を表す注入効率(方向ごとに12個)。1回の試行ごとに時間のかかるシミュレーションを丸ごと実行するため、試せる回数には限りがある。そこで注9の二段構えの探索により、広く1,000通り、有望な範囲を集中的に480通りの計1,480回で絞り込んだ。2021年10月9日に発生し、5機の探査機で同時に観測された太陽高エネルギー粒子の現象に適用した結果、5機すべてで、粒子の到来から立ち上がり、ピークまでの時間変化をおおむね再現した。手順と評価の基準はあらかじめ定めてあり、独立に繰り返しても同じ傾向が得られることを確認した。

 

注11 Fujitsu Solar Energetic particle Intelligent Tuning and Evaluation Network(SEITEN):
SEITEN(セイテン)は日本語の「晴天(clear sky)」にちなむ。太陽高エネルギー粒子のふるまいを晴らして明らかにすること、そして粒子が脅威とならないオールクリア(all-clear)の状態を見通せるようにすること、という二つの願いを込めている。

 

注12 MHD(磁気流体力学)シミュレーション:
プラズマを流体として扱い、磁場との相互作用を含めて解く計算手法。

 

注13 SUSANOO(スサノオ):
Space-weather-forecast-Usable System Anchored by Numerical Operations and Observationsの略。名古屋大学 宇宙地球環境研究所(ISEE)で開発された、太陽風とCMEの惑星間空間における伝播を計算するMHDシミュレーション。NICTが運用し、宇宙天気予報における日々の太陽風じょう乱の到来予測に利用している。IPS(惑星間空間シンチレーション)は、遠方の電波天体からの電波が太陽風の密度のゆらぎによって散乱され、またたくように強さがゆらぐ現象で、CMEが電波の通り道を横切るとこのゆらぎが強まる。本研究では、CMEの磁束を変化させた複数のSUSANOO-CMEシミュレーションを実施し、計算結果からIPS観測量を合成して、名古屋大学ISEEの実際のIPS観測と比較した。その中からIPS観測に最も整合するケースを選定し、地球へのCME到来時刻に最も整合する別のケースとともに、SEPの加速・輸送計算に用いた。

 

注14 SEPIF(セップイフ):
Solar Energetic Particle Injection and Focused transport modelの略。JAMSTECで開発された、衝撃波での粒子加速と磁力線に沿った輸送を計算するモデル。

 

注15 パラメータの空間分布の推定と5機の探査機:
衝撃波の形や強さは太陽から見た方向によって異なるため、粒子が受ける散乱の強さも方向ごとに変わると考えられる。観測点が1か所ではこの違いを見分けられないため、従来はパラメータを空間的に一律と仮定せざるを得なかった。本技術では、太陽からの距離が0.33~1.0天文単位(1天文単位は太陽と地球の平均距離で、約1億5,000万km)、太陽から見た角度が約50度にわたって離れた5機の探査機の観測を同時に満たす解を探索し、パラメータに方向ごとの分布を持たせて推定した。平均自由行程を方向によらず一律とすると、誤差が悪化し、5機の観測を同時には再現できないことも確認した。
5機は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、欧州宇宙機関(ESA)、米国航空宇宙局(NASA)による次の探査機で、いずれも高エネルギー粒子の観測装置を搭載している。BepiColombo(ESAとJAXAの水星探査機)、Solar Orbiter(ESAとNASAの太陽観測探査機)、Parker Solar Probe(NASAの太陽探査機)、STEREO-A(NASAの太陽地球観測探査機)、SOHO(ESAとNASAの太陽観測探査機)。

 

 

【論文情報】

Hiroyuki Tako Ishikawa et al., “Automated Optimization of Solar Energetic Particle Acceleration and Transport Parameters Against Five-Spacecraft Observations of the 9 October 2021 Event”, Scientific Reports(2026年).

DOI: 10.1038/s41598-026-70869-9(2026年10月20日掲載)

URL: https://doi.org/10.1038/s41598-026-70869-9

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 岩井 一正 教授, 主著者:草野 完也 特任教授
https://stsw1.isee.nagoya-u.ac.jp/

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