・水平リサイクル注1)可能で、天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさ(破壊エネルギー注2)50 MJ/m³程度)を持つゴムについて、その丈夫さを生み出す仕組みを解明した。
・一軸伸長機構付きAFM注3)と小角X線散乱(SAXS)注4)を組み合わせ、ゴムを最大8倍まで伸ばした際の微粒子の変形を直接観察した。
・微粒子内部の架橋注5)が少ないと粒子全体が滑らかに変形し、多いと粒子表面に損傷が生じることを見いだした。この変形の違いが、ゴムの硬さと伸びやすさのトレードオフを生み出していることを明らかにした。
・微粒子の変形のしやすさが材料全体の力学特性を決めることを示し、高性能な循環型高分子材料の設計指針を提供する。
名古屋大学大学院理学研究科の内橋 貴之 教授、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の鈴木 大介 教授、弘前大学大学院理工学研究科の呉羽 拓真 助教らの研究グループは、水平リサイクルが可能でありながら高い壊れにくさを持つ、高分子微粒子注6)からできたゴムについて、その丈夫さが生まれる仕組みを明らかにしました。
近年、資源を有効に利用するため、使用後も品質を維持したまま再利用できる「水平リサイクル」が注目されています。しかし、ゴム材料は一般に複雑な構造を持つため、リサイクルが難しいという課題があります。こうした中、高分子微粒子から構成されるゴム材料が、水平リサイクル可能でありながら、添加物を含まない天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさを示すことが見いだされました。一方で、微粒子からできたゴムが、なぜ高い壊れにくさを示すのか、その仕組みは明らかになっていませんでした。
本研究では、微粒子内部の架橋構造を変化させたゴム材料について、初期長さの8倍に及ぶ大きな伸びの中で生じる構造変化を、一軸伸長機構付きAFMによる直接観察と小角X線散乱(SAXS)解析を組み合わせて調べました。その結果、粒子内の架橋が少ない場合にはゴムを構成する微粒子が滑らかに変形する一方、架橋が多い場合には粒子内部の変形が抑えられ、粒子表面の粗化(損傷)が生じることを見いだしました。さらに、このような微粒子の変形の違いが、架橋量の増加に伴ってゴムが硬くなる一方で伸びにくくなるというトレードオフに対応することを明らかにしました。本研究成果は、高い性能を維持しながら繰り返し利用できる循環型高分子材料の設計に向けた基盤的知見を提供します。
本研究成果は、2026年10月13日(米国東部時間)付で米国の科学雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン公開されました。
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注1)水平リサイクル:
使用済みの材料を、元の材料と同等の品質を保ったまま、再び同じような用途の材料として利用するリサイクル方法。本研究のゴム材料では、微粒子に戻した後、再び微粒子を集めることで材料を繰り返し利用できる。
注2)破壊エネルギー:
材料が引っ張られて破断するまでに吸収できるエネルギーを、材料の体積あたりで表した量。応力ひずみ曲線の下の面積に相当し、値が大きいほど壊れにくい。単位はMJ/m³(1立方メートルあたりのエネルギー)。
注3)一軸伸長機構付きAFM(一軸伸長機構を搭載した探針走査型高速原子間力顕微鏡):
原子間力顕微鏡(AFM)は、非常に細い探針で試料表面をなぞり、その凹凸をナノメートル(10億分の1メートル)スケールで観察する顕微鏡。名古屋大学の内橋教授らは、試料ではなく探針側を動かして走査する「探針走査型」の高速AFMを開発してきた。この方式では試料の下側に空間を確保できるため、他の装置を組み合わせやすいという特長がある。本研究ではこの特長を生かして試料側に一軸伸長機構を組み込み、ゴムを伸ばしている途中の表面を観察することを可能にした。また、高速AFM由来の高速な探針高さ制御により、柔らかいゴムの表面を傷めずに安定して観察できる。
注4)小角X線散乱(SAXS):
試料にX線を当て、X線の散らばり方から、材料内部にあるナノメートル~数百ナノメートル程度の構造を調べる手法。本研究では、ゴムを伸ばしたときに、微粒子の内部構造がどのように変化するかを解析した。
注5)架橋:
高分子の長い分子鎖同士をつなぐこと。また、そのつながりによってできる網目状の構造を架橋構造という。架橋が多いほど分子鎖の動きが制限され、一般に材料は硬くなり、伸びにくくなる。本研究では、微粒子内部の架橋の量によって、微粒子の変形の仕方が変化することを明らかにした。
注6)高分子微粒子:
高分子からできた、直径が数百ナノメートル程度の非常に小さな粒。本研究では、この微粒子を集めることでゴム材料を作製している。
雑誌名:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Nanoscale analysis of large deformation of tough microparticle‑based polymer films revealed by atomic force microscopy and small-angle X-ray scattering
著者:Yuichiro Nishizawa‡, Natsuki Watanabe‡, Feng-Yueh Chan, Yuma Sasaki, Yusuke Shinozaki, Haruka Minato, Daisuke Suzuki*, Keita Namba, Takuma Kureha*, Takayuki Uchihashi*(‡共同筆頭著者、*責任著者)
DOI: 10.1021/acsami.6c13253
URL: https://doi.org/10.1021/acsami.6c13253