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医歯薬学

2026.10.20

進行性核上性麻痺におけるドパミン神経系とRNA制御の新たな分子病態を発見 ― マルチオミクスとロングリードシーケンシングによる病態解明 ―

【ポイント】

・FLNA-TgマウスのRNA-seq、ATAC-seq、メタボローム解析、自動行動解析を統合し、フィラミンAの異常に伴う神経機能障害の分子病態を解析した。
・FLNA-Tgマウス脳内におけるフィラミンAの増加により、神経活動に関連するAP-1関連遺伝子群の活性化と、クロマチンの開閉状態の変化が生じることを発見した。
・FLNA-Tgマウス脳内のドパミンやその代謝産物が減少し、ドパミンD2受容体は若齢期に増加する一方、加齢に伴って減少することを明らかにした。
・加齢したFLNA-Tgマウスでは、運動機能、物体認識能力、社会的行動の低下が認められた。
・患者脳のロングリードRNAシーケンシングの実施と既存のシングル核ATAC-seqデータの利活用により、非典型的なRNA転写産物の増加と転写制御の異常を発見した。
・これらの成果から、フィラミンAに関連する細胞骨格の異常と、RNA制御やドパミン神経系の機能障害との関連を示し、進行性核上性麻痺における新たな分子病態を明らかにした。

 

名古屋大学環境医学研究所附属疾患ゲノム医科学研究センターの辻河高陽 准教授(筆頭著者・共同責任著者)、大学院医学系研究科神経内科学の佐橋健太郎 准教授(共同責任著者)、勝野雅央 教授、環境医学研究所発生・遺伝分野の荻朋男教授らの研究グループは、愛知医科大学加齢医科学研究所の岩崎靖 教授、陸雄一 講師との共同研究により、進行性核上性麻痺の新たな分子病態を明らかにしました。
進行性核上性麻痺は、脳内にタウ蛋白が異常に蓄積し、歩行障害や認知機能障害などを引き起こす神経難病(厚生労働省指定難病5)であり、いまだ根本的な治療法は確立されていません。研究グループは2022年、フィラミンAがタウ蛋白の異常凝集を促進することを報告しました(辻河ら. Science Advances, 2022)。
今回、フィラミンAを過剰発現するマウス(FLNA-Tgマウス)を用い、RNA-seq、ATAC-seq、メタボローム解析などのマルチオミクス技術と行動解析を実施しました。その結果、神経活動に関連する遺伝子群やクロマチンの状態が変化するとともに、FLNA-Tgマウス脳内のドパミンやその代謝産物が減少することを発見しました。また、線条体では若齢期に増加したドパミンD2受容体が加齢に伴って減少に転じ、運動・認知機能の低下を伴いました。
さらに、患者剖検脳では、ドパミンD2受容体の減少やAP-1に関連する転写制御異常が認められ、マウスで見出された分子変化との共通性が示されました。ロングリードRNAシーケンシングによって、通常とは異なる構造のRNAや、スプライシングが不完全なRNAが増加していることも明らかになりました。
本研究は、フィラミンAに関連する細胞骨格の異常が、遺伝子発現制御、RNAプロセシング、ドパミン神経系の機能障害と関連することを示し、さらに患者脳でRNAプロセシング異常を見出すことで、進行性核上性麻痺における新たな分子病態を明らかにしたものです。これらの成果は、従来のタウ蛋白の異常凝集を中心とした病態理解をさらに深める重要な知見となります。
本研究成果は、2026年10月19日午前10時(日本時間)に、英国の神経学専門誌『Brain』に掲載されました。

 

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【論文情報】

雑誌名: Brain
論文タイトル: Filamin-A links transcriptional disruption to dopaminergic decline in progressive supranuclear palsy
著者: 辻河高陽1,2,3、佐橋健太郎3、伊藤翔太3、前川朋也1、陸雄一4、岩崎靖4、荻朋男1,2、勝野雅央3
1名古屋大学環境医学研究所 附属疾患ゲノム医科学研究センター
2名古屋大学環境医学研究所 発生・遺伝分野
3名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科学
4愛知医科大学 加齢医科学研究所

DOI: 10.1093/brain/awag228

 

 

【研究代表者】

環境医学研究所附属疾患ゲノム医科学研究センター 辻河 高陽 准教授
https://www.riem.nagoya-u.ac.jp/d_genome.html

 

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