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医歯薬学

2026.11.05

がん細胞死が抗腫瘍免疫を活性化する機序の一端を解明 ミトコンドリアDNAの量が重要な因子に

【ポイント】

・がん免疫療法の仕組みや効果を事前に予測する方法については、いまだ十分に解明されていませんが、研究グループは、がん細胞内のミトコンドリアが、抗腫瘍免疫の活性化に関わる重要な因子であることを明らかにしました。
・がん細胞内ミトコンドリアのDNAとチトクロムcの量的バランスが、分子標的薬による細胞死に伴う免疫応答を左右することを見いだし、がん細胞死の最大化だけでなく、抗腫瘍免疫の活性化に着目する新たな視点を示しました。
・KRAS遺伝子変異陽性がん細胞では、ミトコンドリアDNAが蓄積しており、マウスモデルにおいてMEK阻害薬とマイトファジー阻害薬に免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせると抗腫瘍効果が高まりました。
・今後、ミトコンドリアDNAの量が治療効果を予測する手がかりとなる可能性について検証を進め、分子標的薬と免疫療法を組み合わせた治療戦略の開発につなげるための研究をさらに進めていきます。

 

国立がん研究センターと京都大学、名古屋大学らの研究チームは、がん細胞内のミトコンドリアDNAの量が、がん細胞死に伴って抗腫瘍免疫が活性化されるかどうかを左右する重要な因子であることを明らかにしました。
分子標的薬は、標的となる遺伝子異常を持つがんに高い効果を示す一方で、治療抵抗性や再発が課題となっています。免疫チェックポイント阻害薬との併用が期待されていますが、効果を高めるには、分子標的薬によるがん細胞死が免疫を活性化するかどうかが重要です。がん細胞死には、免疫を活性化する「免疫原性細胞死」と、免疫をほとんど刺激しない「アポトーシス」がありますが、この違いを生む条件は十分にわかっていませんでした。
本研究ではまず、KRAS遺伝子変異注1をもつがんではミトコンドリアDNAが蓄積していることを明らかにしました。次に、ミトコンドリアDNAを多く持つがん細胞に、特定の分子を狙って作用する分子標的薬と、細胞内でのミトコンドリアの分解を抑えるクロロキンを併用すると、ミトコンドリアDNAが細胞質へ放出され、免疫応答が誘導されることを示しました。また、ミトコンドリアDNAと、アポトーシスを誘導するたんぱく質であるチトクロムcとのバランスが、がん細胞死に伴う免疫応答を左右することを見いだしました。
さらに、マウス実験では、MEK阻害薬注2とマイトファジー阻害薬注3に免疫チェックポイント阻害薬注4を組み合わせると、抗腫瘍効果が高まりました。一方、ミトコンドリアDNAが少ない腫瘍では、この効果はみられませんでした。
今後、ミトコンドリアDNAの量が治療効果を予測する手がかりとなる可能性について検証を進め、分子標的薬と免疫療法を組み合わせた治療戦略の開発につなげるための研究をさらに進めていきます。
本研究は、米国科学誌「Immunity」に米国東部時間2026年10月30日(日本時間2026年10月31日)掲載されました。本研究は名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 西川 博嘉教授(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 腫瘍免疫研究分野、先端医療開発センター 免疫TR分野 分野長、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センターがん免疫多細胞システム制御部門 教授併任)らの研究チームで行いました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1.KRAS遺伝子変異
KRAS遺伝子は、細胞の増殖を促す信号を伝えるたんぱく質をつくる遺伝子です。この遺伝子に変異があると増殖の信号が出続け、がんの発生や進行に関わります。KRAS遺伝子の変異は、肺がん、大腸がん、膵臓がんなどで多くみられます。
注2.MEK阻害薬
KRASから始まる細胞増殖の信号は、複数のたんぱく質を順に経由して伝わります。MEK阻害薬は、その途中で信号を伝えるMEKというたんぱく質の働きを抑え、増殖の信号を遮断する分子標的薬です。
注3.マイトファジー阻害薬
細胞内で損傷を受けたミトコンドリアを分解する仕組み(マイトファジー)を抑える作用を持つ薬です。本研究では、この作用が報告されているクロロキンをマウス実験に用いており、がんの治療に使えることを示すものではありません。
注4.免疫チェックポイント阻害薬
免疫細胞には、過剰に働かないようにブレーキをかける仕組み(免疫チェックポイント)があり、がん細胞はこの仕組みを利用して免疫の攻撃から逃れています。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを外し、がんを攻撃するT細胞の働きを回復させる薬です。

 

【論文情報】

雑誌名:Immunity
タイトル:Mitochondrial DNA Abundance Is a Determinant of Immunogenic Cell Death in Cancer
著者:Kosuke Tanaka#*, Yasuki Adachi#, Takuma Irie, Tomoko Yamamori-Morita, Kazuhiro Kumagai, Takuya Owari, Genki Okumura, Yoshihisa Kobayashi, Hideaki Bando, Yuichiro Tsukada, Shogo Kumagai, Kota Itahashi, Eri Sugiyama, Hiroki Izumi, Yuji Shibata, Koichi Goto, Akihiro Ohashi, Susumu S Kobayashi, Shohei Koyama, Hiroyoshi Nishikawa*
(#共同筆頭著者、*責任著者)
*責任著者:名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 西川 博嘉教授(国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野長、同 先端医療開発センター 免疫トランスレーショナルリサーチ分野長、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター がん免疫多細胞システム制御部門 教授併任)
DOI:10.1016/j.immuni.2026.10.002

URL:https://doi.org/10.1016/j.immuni.2026.10.002
掲載日:2026年10月30日

 

 

【研究代表者】

大学院医学研究科 分子細胞免疫学 西川 博嘉 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/micro-immunology/immunology/

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