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農学

2020.10.28

⾼純度の砂糖を⽣産する「砂糖イネ」の開発に成功 -砂糖きび、砂糖大根(甜菜)に続く、「第3の製糖作物」を作成-

福建農林大学の笠原竜四郎教授(元 名古屋大学博士研究員)と、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の桑田啓子特任助教、名古屋大学生物機能開発利用研究センターの野田口理孝准教授のグループは、イネが受精に失敗すると米粒の代わりに高純度の砂糖水を生成することを発見しました。

研究グループは、双子葉植物であるシロイヌナズナで受精が失敗すると、その胚珠が受精をすることなしに肥大するPOEM現象(笠原ら2016年)を発見していました。その現象を単子葉植物であるイネでも観察できるかどうか、2020年ノーベル化学賞を受賞したEmmanuelle Charpentier博士とJennifer A. Doudna博士の発見による CRISPR/CAS9のゲノム編集技術を用いて実験を続けた結果、イネでも受精に失敗すると胚珠が肥大することがわかりました。さらに興味深いことに、肥大した胚珠の中は、デンプンではなく液体で満たされており、遺伝子解析の結果デンプン形成の前駆体であるショ糖が含まれている可能性が高まりました。そこで、この液体の成分分析を行ったところ、この液体には糖成分のうち、ショ糖が98%、果糖とブドウ糖が僅か1%ずつ含まれており、精製しなくても既に非常に高純度なショ糖液であることがわかりました。

現在、世界でショ糖を生産する植物はサトウキビと甜菜の2種類のみであり、その他にも糖を生産する植物は存在するとはいえ、この2つに匹敵するショ糖純度を保持するものはありませんでした。しかし、今回作成できた「砂糖イネ」は、世界に「第3の製糖植物」を提供できる可能性を示唆しています。サトウキビは、日本では沖縄をはじめとする熱帯、亜熱帯地方を中心に、また、甜菜は、北海道をはじめとする寒冷地を中心に分布する植物であり、これらの植物は、低温あるいは高温の条件下では、著しく糖生産の効率が下がることが知られています。しかし、イネは現在北海道から沖縄まで生産可能であることから、砂糖イネも同様であり、日本の場合はどこでも糖生産が可能であることを示唆しており、今後、世界的に糖生産の限界を超える新規作物として期待されます。

本研究成果は、2020年10月27日付英科学誌Communications Biology誌オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

1. イネは受精に失敗すると、米粒の代わりに砂糖水を生成することを発見。

2. 98%という高純度のショ糖を生産することができ、製糖、バイオエタノール作成に有利。

3. 砂糖イネはサトウキビや甜菜とは違い栽培場所を選ばず、世界的な砂糖生産が可能となる。

 

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

 

【論文情報】

雑誌名:Communications Biology

論文タイトル:High-quality sugar production by osgcs1 rice

著者:Yujiro Honma, Prakash Babu Adhikari, Keiko Kuwata, Tomoko Kagenishi, Ken Yokawa, Michitaka Notaguchi, Kenichi Kurotani, Erika Toda, Kanako Bessho-Uehara, Xiaoyan Liu,  Shaowei Zhu, Xiaoyan Wu, Ryushiro D. Kasahara

DOI:10.1038/s42003-020-01329-x

 

【研究代表者】

生物機能開発利用研究センター 野田口 理孝 准教授

http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~graft/