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生物機能開発利用研究センター

No.22 野田口 理孝 准教授

My Best Word:10年でスタート地点に立つ。向き合い続けて見えてきたこと。

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

学位を取って大学院を出てから、およそ10年にわたり植物の基礎研究に取り組んできました。10年経って、やっと研究のスタート地点に立てた気がしたので、この言葉を選びました。いま振り返ると、誰に何を言われようとも、自分が「面白い」「やるべきだ」と思った研究テーマに向き合い続けてきたからこそ、今の景色が見えてきたと思います。 

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

二つの研究をコインの裏表のように研究しています。一つは、植物の根と地上部の間でどんなコミュニケーションがあるかを研究しています。植物は、様々な分子を体の中で運んでいることが知られていて、それによって周辺の環境や生態系に適応して生きています。その精緻な生き方を知りたくて、植物の個体の中の情報伝達機構の研究をしています。もう一つは、接木という二つの植物をつなげる農業でも使われる手法について、その現象の分子機構の研究をしています。一つ目の研究で、接木を実験方法として使ったのがきっかけです。

 

Q:研究を始めたきっかけは?

もともと人の病気の研究がやりたいと思って大学に入りました。しかし、学ぶにつれて、私たちの生命を支えるには大切なものがたくさんあることを知り、その一つが植物でした。植物は、食料であり、飼料であり、原料やエネルギーであり、私たちの生命に必須な存在です。新鮮な野菜、それを使った美味しい料理を食べたときに、私たちはとても幸せな気分になります。そんな植物は、地球温暖化、農地開拓、生物多様性の減少といった難しい問題にさらされています。それに気がついたとき、将来のために真剣に取り組もうと決意しました。

 

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2017年7月にドイツで開催された植物科学の国際会議での集合写真

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2018年11月に研究仲間と見学に訪れた山形のバラ園での写真

 

Q:研究が面白い!と思った瞬間はどんな時ですか?

植物のスマートな生き様を、科学的に捉えられたかもしれないと思う瞬間があるのですが、その瞬間はとてつもなく研究が面白いと思います。大きな発見は、1年から数年に一度くらいです。その晩は興奮して眠れません。私たち人間が単細胞の生物から進化してきたのと同じ時間をかけて、今の植物も進化してきました。植物には植物の実に巧妙で優れた生命システムを発達させています。私たち人間の理解が追いついていないだけで、とても魅力的な存在です。その魅力をはじめて垣間見たかもしれないとき、痺れる興奮があります。

 

 

1. DSCN9308.JPG
新しい接木方法の発見によりピンクと白の異なる花の接木

 

Q:先生は、名大発アグリバイオスタートアップであるグランドグリーン株式会社の取締役も務めていらっしゃいます。研究成果の社会実装に関してどのようなお考えをお持ちですか。

植物が私たちの生命を支える存在であることから、これからの社会では植物と私たちはとても良い関係で共存していかないといけないと思っています。しかし、限られた知識と限られた技術では、それも叶いません。大学の基礎研究で得られた英知を、持続可能な社会に貢献する提案へとつなげ、それを実践したい。そのために大学発ベンチャーを創業しました。挑戦は続きますが、やりたいと信じることに仲間とともに突き進んでいきたいです。 

 

Q:新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、愛知県に緊急事態宣言が出ていた間は、様々な影響があったと思います。どのように過ごされていましたか?また、ストレス解消法があれば教えてください。

在宅勤務が中心となりました。私たちは実験科学の研究をしているので、在宅でできることは限られます。しかし、普段より研究について熟考する機会としたいと考えました。そして、この期間が次の成長につながるはずであると考えました。運動不足に拍車がかかり、ストレスも溜まりました。筋トレやストレッチで、体を動かすと良いと思います。

 

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

大学院のときに一度、5年ほど前に一度、自分は研究者として力量が足りていないと挫折しかけたことがあります。大学院のときは他にやりたいことも見つからず、当時の研究だけは納得のいくところまでやろうと決め、卒業まで続けることができました。5年ほど前は、出会った多くの方に支えていただきました。真剣に向き合うほど自戒も大きく、困難に挑戦するほど突破できるか先は見えず、未だ半人前の私ですが、その経験こそは私の財産です。 

 

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

これぞ植物という研究に挑戦していきたいです。ずっとプラズモデスマータの研究をやりたいと思っていたので(ぜひ調べてみてください)、これまでの経験と技術を活かして難題に取り組みたいと思います。また、研究を重ねてきたことで、農業へ活用できる可能性のある技術もいくつか生まれてきました。アイデア段階のものもあれば、ベンチャーで既に実用段階まで開発が進んだものもあります。大学などで行われる基礎研究の成果が、社会で活用され、誰かの幸せにつながる、それがもっと普通であたりまえになるよう、これからも一研究者として努力を続けたいと思います。

 

氏名(ふりがな) 野田口 理孝(のたぐち みちたか)

所属  生物機能開発利用研究センター

職名 准教授

 

略歴・趣味

2009年に京都大学大学院理学研究科で博士号(理学)を取得後、カリフォルニア大学デービス校でのポスドク研究員を経て、2012年より名古屋大学へ。大学院理学研究科、高等研究院、大学院生命農学研究科、トランスフォーマティブ生命分子研究所、生物機能開発利用研究センターに在籍。趣味は、読書、人と語らうこと、そして何より研究。 

 

 

【関連情報】

インタビュー記事「"接ぎ木"の研究で、植物の仕組みを学び、農業に貢献する」(名古屋大学農学部「研究トピックス」)

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