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医歯薬学

2021.01.18

がん放射線治療の効果増強に向け前進 ~プラスの金ナノ粒子のγ線誘発DNA損傷の増強効果~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の余語 克紀 助教らの研究グループは、国立研究開発法人産業技術総合研究所健康医工学研究部門の三澤 雅樹 主任研究員、愛知県がんセンター、量子科学技術研究開発機構、北里大学、広島大学との共同研究で、高線量率小線源治療注1)のγ線照射によって生じるDNA損傷に対して、プラスに帯電した金ナノ粒子注2)の増強効果を明らかにしました。

高線量率小線源治療は副作用が少なく、子宮頸がんなどに集中して高い線量を投与できる優れたがん治療法です。この治療では、放射線を出す米粒大の微小な線源を専用のチューブ等を通して、がん近くまで運び、体内からγ線を照射します。治療効果をさらに高めるために、金ナノ粒子を薬剤として併用する方法が有望と考えられていますが、従来は大量の金ナノ粒子を必要とする点が課題でした。

本研究では、γ線照射によって生じたDNA損傷をDNA電気泳動法注3)で高感度に調べ、プラスおよびマイナスに帯電した金ナノ粒子による増強効果の違いを調べました。その結果、プラスの金ナノ粒子のみが、DNA損傷に対して有意な増強効果を示しました。一方で、マイナスの金ナノ粒子も、放射線によって生じる活性酸素量は同程度であることが分かりました。これにより、プラスの金ナノ粒子がマイナスのDNAに結合することで、少量でも効果的に増強している可能性が示唆されました。

この研究成果は、金ナノ粒子の用量低減に向けた解決の糸口となり、さらに治療効果を高めるがん放射線治療用薬剤の開発に寄与すると期待されます。また、ナノ粒子の電気的な性質を変えることで、広くがん放射線治療の効果増強に適用できる可能性を示すことができたため、さらなる応用が期待されます。

この研究成果は産総研-名大アライアンス事業の支援を受け、2021年1月14日付 International Journal of Nanomedicineオンライン版に掲載されました。
 

 

【ポイント】

・放射線治療の一種である高線量率小線源治療の効果を高めるために、金ナノ粒子の併用が有望であるが、金ナノ粒子を大量に必要とする点が臨床応用に向け課題。

・治療用γ線照射によって生じるDNA損傷をDNA電気泳動法で高感度に調べ、プラスおよびマイナスに帯電した金ナノ粒子による増強効果の違いを調べた。

・DNA損傷に対して、プラスの金ナノ粒子のみが少量でも有意な増強効果を示した。一方で、マイナスの金ナノ粒子も同程度の活性酸素を発生した。

・プラスおよびマイナスによる効果の違いは、DNAへの結合のしやすさにより生じている可能性が示唆された。

・電気的な性質を変えることで、より少ない量の金ナノ粒子で効果的にがん放射線治療の効果を増強できる可能性が示された。今後本手法の臨床応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

 

【用語説明】

注1)高線量率小線源治療;がん放射線治療法の一つ。20~30歳代女性の発症率が増加している子宮頸がんへの適応が多い。高線量率小線源治療は副作用が少なく、集中して高い線量を投与できる優れたがん治療法である。治療では、米粒大の小さなγ線源をがんへ運び、線源の止まる位置と止まる時間を制御し線量を投与する。

注2)金ナノ粒子;ナノメートル(10億分の1メートル)単位の大きさを持つ金粒子。放射線をよく吸収し、放射線治療の効果を高める薬剤として注目されている。金という材質は、化学変化が少なく医学の他の分野でも使用実績があり安全性が高い。さらに金粒子は各種の修飾が容易であり、本研究ではアミノ基を修飾してプラスの電荷を与えた。

注3)DNA電気泳動法;DNAをアガロースなどの寒天の網目の中に通して、電気の力で引っ張り、大きさによって簡単にふるい分ける方法。本実験で用いたDNAは、プラスミドDNAという小さなリング状のDNAであり、小さくよじれた形(損傷なし)から、開いた環状(一本鎖切断)、直線状(二本鎖切断)への変化を簡単に高感度に検出できる。

 

【論文情報】

雑誌名:International Journal of Nanomedicine (欧州医学専門誌)

論文タイトル:Effect of gold nanoparticle radiosensitization on plasmid DNA damage induced by high-dose rate brachytherapy

著者:Katsunori Yogo, Masaki Misawa, Morihito Shimizu, Hidetoshi Shimizu, Tomoki Kitagawa, Ryoichi Hirayama, Hiromichi Ishiyama, Takako Furukawa, and Hiroshi Yasuda (本学関係教員;余語克紀、古川高子)       

DOI:10.2147/IJN.S292105

 

 【研究代表者】

大学院医学系研究科総合保健学専攻 余語 克紀 助教