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数物系科学

2021.01.19

オーロラ粒子の加速領域は超高高度まで広がっていた -オーロラ粒子の加速の定説を覆す発見-

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の今城 峻 特任助教、三好 由純 教授、塩川 和夫 教授、台湾Academia Sinica(中央研究院)の風間 洋一 客員研究員、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の浅村 和史 准教授、篠原 育 准教授、金沢大学の笠原 禎也 教授、東北大学の笠羽 康正 教授、京都大学の松岡 彩子 教授、栗田 怜 准教授、米国UCLAのVassilis Angelopoulos 教授および日本、台湾の研究者からなる共同研究グループは、JAXAジオスペース探査衛星「あらせ」(以下、「あらせ」)搭載の高角度分解能電子観測機器「LEPe」を含む包括的な宇宙空間観測機器と、米国THEMISチームの展開する高時間空間分解能の地上全天カメラを用いたオーロラ協調観測によって、オーロラアーク上空において、高度30,000km以上もの超高高度まで広がるオーロラ電子が加速されている領域を発見しました。この発見は、オーロラの電子は数千km高度で加速されているという過去50年にわたって信じられてきた定説を覆すもので、オーロラ発生機構に新たな謎をもたらします。今後、超高高度加速域の謎を解き明かすことで、木星や土星でのオーロラや、パルサーなどの天体磁気圏における電子の加速メカニズム過程の解明にも大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2021年1月18日付(日本時間1月18日19時)Nature系学術誌『Scientific Reports』オンライン版に掲載されました。

なお、ISEEには、JAXA宇宙科学研究所と共同で「あらせ」のサイエンスセンター(統合データサイエンスセンター)が設置されており、世界中にデータを公開しています(https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/)。


【ポイント】

・過去50年にわたり信じられていた数千kmの加速高度の10倍も高い、高度30,000km以上もの超高高度で、すでにオーロラを光らせる電子は加速されているという、予想外の発見がもたらされた。

・今回の発見は、オーロラ電子が加速されている高度方向の広がりの定説を覆し、加速電場形成の考え方の見直しを迫る。

・独特な軌道・高性能な観測機器を持つ「あらせ」衛星と米国THEMISチームの展開する広域視野の地上全天カメラによって、超高高度におけるオーロラ電子加速を検証できる、これまでにない稀なオーロラ-宇宙空間同時観測が実現した。

・本研究で新たに提起された謎を追究することで、木星や土星のオーロラ、パルサー磁気圏など、地球の典型的高度の加速域とは異なるプラズマ環境を持った太陽系や天体磁気圏における電子の加速メカニズム過程の解明にも大きく貢献することが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

オーロラ(電子)加速領域/加速域:

ディスクリートオーロラと呼ばれる、明るく境界のはっきりしたオーロラを光らせるもととなる電子を加速する静電場のある領域。中心に向かうほど電位の低いU字型の電位構造を持っている。電子を下向きに加速する上向き電場があるのは、主に高度数千kmの領域とされる。この電場が生成される仕組みには多くの仮説があり、今のところはっきりとはしていないが、典型的な加速域高度では性質の異なるプラズマが混じり合うことで生じる局所的な電子とイオンの分離(ダブルレイヤー)が有力な説の一つとされる。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports (ネイチャー・リサーチ社刊行の学術雑誌)

論文タイトル:Active auroral arc powered by accelerated electrons from very high altitudes

著者:

今城 峻(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)

三好 由純(名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授)

風間 洋一(Academia Sinica  客員研究員)

浅村 和史(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授)

篠原 育(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授)

塩川 和夫(名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授)

笠原 禎也(金沢大学総合メディア基盤センター 教授)

笠羽 康正(東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター  教授)

松岡 彩子(京都大学地磁気世界資料解析センター 教授)

Shiang-Yu Wang(Academia Sinica 主任研究員)

Sunny W. Y. Tam(National Cheng Kung University  教授)

Tzu-Fang Chang(National Cheng Kung University 客員助教)

Bo-Jhou Wang(Academia Sinica  補助研究員)

Vassilis Angelopoulos(カリフォルニア大学ロサンゼルス校  教授)

Chae-Woo Jun(名古屋大学宇宙地球環境研究所  特任助教)

小路 真史(名古屋大学宇宙地球環境研究所  特任助教)

中村 紗都子(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)

北原 理弘(名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教)

寺本 万里子(九州工業大学工学部  助教)

栗田 怜(京都大学生存圏研究所  准教授)

堀 智昭(名古屋大学宇宙地球環境研究所  特任准教授)

DOI:10.1038/s41598-020-79665-5                             

 

【研究代表者】 

宇宙地球環境研究所 今城 峻 特任助教

http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/index-j.html
https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/