TOP   >   人文学   >   記事詳細

人文学

2021.01.12

旧人新人の交替と旧石器文化進化を数理モデルで解析:現象数理学と考古学の新たな融合研究

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の門脇 誠二 講師は、明治大学総合数理学部の若野 友一郎 教授との共同研究で、数理モデルを用いた人類進化史の説明に成功しました。今回提案された「生態文化分布拡大モデル」は、2つの人類集団(旧人と新人注1)の空間分布動態を表現すると共に、集団間の資源競争による人口密度の変化を示します。また、人口密度は文化(環境収容力の上昇に寄与する技術)とフィードバック関係を持つように設定されています。

この数理モデルは、私たち新人の祖先がアフリカから拡散した際の旧人との関係や文化変化を包括的に説明する理論的枠組みです。新人がユーラシアに少しずつ拡散していた頃(約19万~4.5万年前)、新人と旧人は共存・交雑していました。その時の新人は、旧人と類似した文化を持っていました。その後、約4.5万年前以降になると各地で新人が増加する一方で旧人は絶滅しました。その時の新人は、各地の環境や資源に適応した新たな文化を発達させました。

本研究の数理モデルを理論的枠組みとして、人類の進化と拡散に関して近年急増する遺伝学と考古学、古人類学の記録が、お互いに関連づけながら整理され、包括的な人類進化のプロセスが明らかになることが期待されます。

この研究成果は、2020年12月16日付Elsevier社の科学誌Quaternary Internationalにオンライン公開されました。

この研究は、文科省科研費 新学術領域研究(2016~2020)と基盤研究A(2020~2024)の支援のもとで行われたものです。


【ポイント】

・本研究は、人類進化史に関する考古学や古人類学、古代DNA研究など多分野の成果を、相互に関連づけながら整理し、包括的な人類進化のプロセスを数理モデルを用いて示した。

・具体的には、旧石器時代注2における新人の世界拡散や文化進化に大きく2段階が生じた理由について、生態文化分布拡大モデルを援用して世界で初めて理論的説明を示した。

・数理科学と人文科学の間のこれまでにない新しい融合研究の分野を切り開くと期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)旧人と新人: 旧人は、ネアンデルタール人やデニソワ人など、現在は絶滅してしまった人類集団を指す。新人は現存する人類(Homo sapiens)とその系統の祖先集団を指す。別称としてホモ・サピエンスや現生人類とも呼ばれる。新人は約30万年前のアフリカで発生し、10万年前までには西アジア(中近東)や南東ヨーロッパ(ギリシャ)に拡散していた。同時期のユーラシアでは、ネアンデルタール人やデニソワ人といった旧人が生息しており、新人と交雑があったことが近年の古代DNA研究で明らかになっている。

注2)旧石器時代: 人類史上はじめて石器が登場した約300万年前から約1万年前までの間が旧石器時代。野生の動植物を食料とする狩猟採集による生活が行われていた。

 

【論文情報】

雑誌名:Quaternary International

論文タイトル:Application of the ecocultural range expansion model to modern human dispersals in Asia

著者:Joe Yuichiro Wakanoa(若野友一郎)and Seiji Kadowakib(門脇誠二)

a. School of Interdisciplinary Mathematical Sciences, Meiji University, Nakano 4-21-1,Nakano-ku, Tokyo 164-8525, Japan

b. Nagoya University Museum, Nagoya University, Furocho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601,Japan

DOI:10.1016/j.quaint.2020.12.019

 

【研究代表者】                                  

名古屋大学博物館・大学院環境学研究科 門脇 誠二 講師

http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html