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国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科有機・高分子化学専攻(未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所兼務)の野呂 篤史 講師らの研究グループは、日本ゼオン株式会社との共同研究で、世界トップクラスの高靭性注1を示す熱可塑性エラストマー注2を新たに開発しました。

熱可塑性エラストマーは、プラスチック、ゴム、繊維などを代表とする高分子材料注3の一つで、金属やセラミックスなどの硬い材料よりも軽量で、柔軟性・伸縮性・加工性も兼ね備えています。ゆえに自動車の内装・外装部材を中心に、比較的柔らかく加工が容易なソフトな構造材料注4として利用の幅が広がっており、その世界市場は2兆円/年とも言われています。しかしながら強度や靭性という点においては、金属などの硬い材料と比較するとはるかに劣るため、強靭さが求められる自動車ボディ関連部材などへの適用は限定的でした。

今回の共同研究では、工業的に製造工程が確立されているスチレン系熱可塑性エラストマー(SIS注5)に化学修飾を施し、新規な熱可塑性エラストマー(iSIS)を開発しました。従来型のSISでは、引張強度注6、タフネス注7はそれぞれ9.1 MPa、112 MJ/m3であったのに対し、今回開発したiSISでは43.1 MPa、480 MJ/m3とそれぞれ4倍以上の値を示し、特にタフネスに関しては現在までに学術誌で報告されているものの中で最も高い値を示しており、強靭さが求められる自動車ボディ関連部材等での利用も期待されます。

本研究成果は、2021年1月19日付で国際的な科学雑誌『Polymer』のオンライン版で速報(Short communication)として掲載されました。

 

【ポイント】

・熱可塑性エラストマーは軽量で、柔軟性・伸縮性・加工性などを兼ね備えるが、強度や靭性という観点では不十分。

・日本ゼオン株式会社との共同研究において、工業的に製造工程が確立されているスチレン系熱可塑性エラストマー(SIS)を化学修飾。

・世界トップクラスの高靭性(480 MJ/m3)を示すスチレン系熱可塑性エラストマー(iSIS)を開発。

 

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【用語説明】

注1) 靭性:破壊のされにくさの程度。外力に対する材料の粘り強さ。反意語は脆性(脆さ)。

注2) 熱可塑性エラストマー:Thermoplastic elastomer(略称:TPE)。プラスチックとゴム(エラストマーとほぼ同義)の両方のポリマー成分を分子レベルで繋いだ複合ポリマーからなる材料。スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーなどがある。

注3) 高分子材料:分子量の大きい分子(ポリマー)からなる材料。具体的にはプラスチック、ゴム、繊維などの材料。

注4) 構造材料:構造・形を保つために強度やその他力学特性が要求される材料。

注5) SIS:ポリスチレン-b-ポリイソプレン-b-ポリスチレンの略称。ポリスチレンとポリイソプレンをABA型でつないだブロック型のポリマー(ブロック共重合体)。ポリスチレンは、カップ麺容器やDVDケース等に使用されるプラスチック成分のポリマー。ポリイソプレンは、タイヤや輪ゴムなどに使用さるゴム成分のポリマー。

注6) 引張強度:材料を単純に引っ張ったときに発生する最大の応力(面積当たりの力、単位はMPa)。

注7) タフネス:材料を単純に引っ張ったときに破壊されるまでに必要とされるエネルギー。応力-ひずみ曲線の内面積値(単位はMJ/m3)。この値が大きいほど高靭性。

 

 

【論文情報】

雑誌名:Polymer

論文タイトル:Extremely Tough Block Polymer-Based Thermoplastic Elastomers with

Strongly Associated but Dynamically Responsive Noncovalent Cross-Links

著者:梶田貴都(名古屋大学大学院生)、田中春佳(名古屋大学研究員)、野呂篤史(名古屋大学講師)、松下裕秀(豊田理化学研究所(名古屋大学名誉教授))、野澤淳(日本ゼオン)、磯部浩輔(日本ゼオン)、小田亮二(日本ゼオン)、橋本貞治(日本ゼオン)

DOI:10.1016/j.polymer.2021.123419                                      

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 野呂 篤史 講師

https://phys-chem-polym.chembio.nagoya-u.ac.jp/member-noro.html