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電子が有する微小な磁気であるスピンを利用して、次世代の高性能デバイスの実現を目指すスピントロニクスの研究においては、スピンと他の物理量の結びつきを解明することが重要なテーマとなっています。近年、回転や振動、変形といった物体の力学的運動とスピンの相互変換が注目されていますが、力学的運動に由来するスピン変化の検出が難しく、さらなる実験的研究が求められています。

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の河野 浩 教授、船戸 匠 大学院生らは、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の川田 拓弥大学院生、河口 真志 助教、林 将光 准教授の研究グループと共同で、スピン軌道相互作用の大きな重金属中で発現するまったく新しい振動-スピン流変換機構の存在を、簡便な電気測定で明らかにしました。本研究では、重金属/強磁性体ヘテロ構造に表面弾性波と呼ばれる原子スケールの高速振動を伝搬させたさいに生じる直流起電力を詳細に調べ、格子振動がスピン軌道相互作用を介して電子スピンと結合するという、新しい相互作用に基づくモデルによって実験結果を説明できることを示しました。原子振動・スピン・電気を橋渡しする今回の結果は、さまざまな物質における力学的運動やスピンの働きを探究する足がかりとなるものであり、スピンを用いた微細デバイスの制御や身の回りのあらゆる振動から電力を取り出す新規な発電素子の実現につながるものと期待されます。

 

【ポイント】

・表面弾性波(注1)と呼ばれる高速振動が重金属を伝搬するさい、磁気の流れであるスピン流(注2)が生じることを直流電気測定で発見した。

・この現象は、電子の軌道運動とスピンを結合するスピン軌道相互作用(注3)を介した未知の振動-スピン流変換機構に起因すると考えられる。

・スピンと力学的運動の相互変換に関する基礎学理の構築に寄与するとともに、スピンによる微細デバイス制御や新規な振動発電素子への応用などが期待される。

 

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【用語解説】

注1表面弾性波

地震波のように、固体の表面を伝わる波の総称です。特に、圧電基板と櫛形電極を用いて発生できるレイリー波と呼ばれる表面弾性波は、縦波と横波が結合することにより格子の回転運動を誘起します。

注2スピン流

電荷の流れのことを電流と呼ぶのに対応して、上向きと下向きのスピンが逆方向に向かう流れのことをスピン流と呼びます。

注3スピン軌道相互作用

電子の軌道角運動量とスピン角運動量を結合する相互作用で、電子の運動方向とスピンを関連づける働きをします。スピン軌道相互作用は一般に重い元素で大きくなる傾向があります。

 

【論文情報】

雑誌名:「Science Advances」

論文タイトル:Acoustic spin Hall effect in strong spin-orbit metals

著者:Takuya Kawada, Masashi Kawaguchi*, Takumi Funato, Hiroshi Kohno, Masamitsu Hayashi*

DOI:10.1126/sciadv.abd9697

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 河野 浩 教授

http://www.st.phys.nagoya-u.ac.jp/