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生物学

2021.02.16

体内のマンノース濃度を保つ仕組みを解明 〜進化の過程で選択された糖代謝経路〜

シアル酸は細胞の表層を覆う糖鎖の末端に位置し、細胞間認識や微生物との相互関係に関わっています。哺乳類が糖鎖合成に用いるシアル酸にはNeu5AcとNeu5Gcがあり、ヒトは進化の過程でNeu5Gcを合成する酵素(CMAH)を失いました。しかし牛肉や豚肉などの赤身肉に含まれるNeu5Gcはヒトの糖鎖に一部組み込まれ、血中の抗Neu5Gc抗体による炎症を生じます。そのためNeu5Gcは動脈硬化や大腸癌などの疾患との関連が注目されています。一方、魚類の糖鎖から発見されたシアル酸Kdnは、当初、ヒトを含む哺乳類には存在しないと考えられましたが、糖鎖合成に必須であるマンノースの代謝産物として産生され、前立腺癌などの悪性腫瘍組織にも含まれることなどが分かってきました。

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学糖鎖生命コア研究所統合生命医科学糖鎖研究センターの佐藤 ちひろ 教授、北島 健 教授らの研究グループでは、シアル酸と腎不全の病態との関連を調べるため、血液透析患者の血液を分析したところ、Kdnが蓄積していることを見いだしました。さらに、血液透析患者の血中では、Kdnが健常者の約6倍に上昇するものの、マンノース濃度は基準値付近に保たれること、健常者では過剰なマンノースがKdnに代謝され、尿中に排泄されることを明らかにしました。また、マンノースを付加した培養細胞を分析すると、遊離型のKdnは産生されても、糖鎖に組み込まれるKdnはごくわずかであることを明らかにしました。

さらに、マンノース代謝に関連する酵素群の遺伝子配列の分析により、ヒトを含む脊椎動物では、進化の過程で、過剰なマンノースを無毒化し、突然変異を排除するような自然選択(純化淘汰)が行われたことが示唆されました。

 

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【論文情報】

【題 名】  Evolutionary conservation of human ketodeoxynonulosonic acid production is independent of sialoglycan biosynthesis.

(ヒトのKdn産生経路はシアル化糖鎖合成とは独立した存在意義(マンノース代謝)を持つ)

【著者名】 Kawanishi K1), 2), Saha S1), Diaz S1), Vaill M1), Sasmal A1), Siddiqui SS1), Choudhury BP1), Sharma K3), Chen X4), Schoenhofen IC5), Sato C6), Kitajima K6), Freeze HH7), Münster-Kühnel A8), Varki A1) 3)

1)カリフォルニア大学サンディエゴ校細胞分子医学

2)筑波大学医学医療系

3)カリフォルニア大学サンディエゴ校内科学

4)カリフォルニア大学デービス校化学科

5)カナダ国立研究機構

6)名古屋大学糖鎖生命コア研究所統合生命医科学糖鎖研究センター

7)サンフォードバーナムプレビス医学研究所

8)ハノーバー医科大学臨床生化学

【掲載誌】  Journal of Clinical Investigation

【掲載日】  2020年12月29日

【DOI】    10.1172/JCI137681

 

【研究代表者】

糖鎖生命コア研究所統合生命医科学糖鎖研究センター 佐藤 ちひろ 教授

https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~gls/