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医歯薬学

2021.02.03

アフリカツメガエルのオタマジャクシの遺伝子が脊髄損傷の治療に有効! ~脊髄内在性神経幹細胞への遺伝子導入による神経再生〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学の夏目 敦至(なつめ あつし)准教授、福岡 俊樹 客員研究者(筆頭著者)、加藤 彰 研究員(共筆頭著者)らの研究グループは、再生能力を持つアフリカツメガエルの幼生(オタマジャクシ)の遺伝子から神経再生に有効な遺伝子を発見し、脊髄損傷したマウスの脊髄内の幹細胞に遺伝子を入れることで神経再生に成功しました。脊髄損傷は、その治療に対し、これまでも多くの研究がなされてきましたが、現在においても完全に神経を再生させることは難しく、手足の麻痺などの重い後遺症を残す難治性の神経外傷です。脊髄損傷の治療が難しい要因として、哺乳類の脊髄における神経再生能力が非常に限られていること、そしてグリア瘢痕(はんこん)※1 と呼ばれる損傷部の傷跡が神経再生を妨げることが挙げられ、それらの克服により脊髄損傷治療が期待できます。
本研究では、脊髄の中心部にある上衣細胞※2 が損傷することにより多分化能のある幹細胞の性質を持つことに着目し、幹細胞を神経細胞へ誘導できれば神経再生へと繋がる可能性があると考えました。そして幹細胞へ導入する有力な候補遺伝子として、神経再生能の高いアフリカツメガエルの
遺伝子解析から、神経転写因子 Neurod4 を導き出しました。損傷後、幹細胞からアストロサイト※3、そしてグリア瘢痕になる細胞分化の運命を Neurod4 の導入により方向転換させることに成功しました。アストロサイトになる運命のものが神経細胞(ニューロン)へ分化し、さらには損傷部の傷跡の主成分であるグリアの減少が認められました。また、分化したニューロンは、それぞれが新たに運動ニューロン※4とシナプス※5を形成することも確認でき、実際に Neurod4 を導入されたマウスは運動機能が改善しました。本研究により、脊髄内在性幹細胞に対する神経転写因子 Neurod4 導入は脊髄損傷に対する有力な治療法となる可能性が示されました。
本研究成果は、国際生物学総合誌「iScience」(英国時間 2021 年 2 月 3 日付(日本時間 2021 年 2月 3 日の午前 9 時)の電子版)に公開されました。
本研究の一部は日本学術振興会科学研究費助成事業新学術領域研究「分子夾雑の生命化学」の助成を受けました。


【ポイント】

○ 脊髄損傷は現在も重い後遺症を残す難治性の神経外傷であり、その理由として哺乳類において脊髄内での神経再生能力が非常に低いことが挙げられる。
○ 極めて高い再生能力を有するアフリカツメガエルの幼生の網羅的発現解析を行い、有望な神経転写因子「Neurod4」を発見した。
○ さまざまな神経系細胞へ分化する神経幹細胞に感染しやすい髄膜炎ウイルスの膜と遺伝子導入用ベクターをハイブリッドしたウイルスを独自に開発した。このベクターを用いて、脊髄損傷部位に Neurod4 遺伝子を導入した。
○ Neurod4 遺伝子の導入により、神経幹細胞からアストロサイトへ分化する運命が変化し、その代わり神経細胞へ分化を導くことができた。新生運動ニューロンと既存のニューロンがシナプスを形成することで下肢機能が改善された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 グリア瘢痕:損傷を受けた中枢神経系では、損傷周囲部にアストロサイトが生成、集積し、グリア瘢痕と呼ばれる高密度の瘢痕組織を形成する。
※2 上衣細胞:胎生期に脳室に面した神経幹細胞を産生し、脳室系の壁を構成する上皮細胞の一種である。
※3 アストロサイト:中枢神経系に存在する神経細胞(ニューロン)を支持する細胞。脊髄損傷後、グリア瘢痕(はんこん)を形成する。
※4 運動ニューロン:骨格筋の運動を支配する神経細胞
※5 シナプス:神経細胞間あるいは筋繊維、神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位


【論文情報】

掲雑誌名:iSience(英国時間 2021 年 2 月 3 日付けの電子版に掲載)
論文タイトル:Neurod4 converts endogenous neural stem cells to neurons with synaptic formation after spinal cord injury
著者: Toshiki Fukuoka1, Akira Kato1, Masaki Hirano1, Fumiharu Ohka1, Kosuke Aoki1, Takayuki Awaya1, Alimu Adilijiang1, Sachi Maeda1, Kuniaki Tanahashi1, Junya Yamaguchi1, Kazuya Motomura1, Hiroyuki Shimizu1, Yoshitaka Nagashima1, Ryo Ando1, Toshihiko Wakabayashi1, Dasfne Lee-Liu2,3, Juan Larrain4, Yusuke Nishimura1*, Atsushi Natsume1
所属:1 Department of Neurosurgery, Nagoya University School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Geroscience Center for Brain Health and Metabolism, Santiago, Chile
3 Department of Biology, Faculty of Sciences, Universidad de Chile, Santiago, Chile
4 Cell and Molecular Biology, Developmental Biology and Regeneration, P. Universidad Catolica de Chile, Chile
DOI:10.1016/j.isci.2021.102074
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/iSci_210203en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 夏目 敦至 特任教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/clinical-neurosciences/neurosurgery/