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生物学

2021.02.08

生命の起源は人工核酸XNA? 〜人工核酸の非酵素的鎖伸長法の開発〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の村山 恵司 助教、沖田 ひかり 博士前期課程学生、浅沼 浩之 教授らの研究グループは、人工的な核酸を酵素を用いずに配列複製する新たな手法の構築に成功しました。

現在地球に存在する生命は、DNA、RNA、タンパク質といった多様な生体分子が関与する複雑なシステムを利用しながら活動しています。一方、原始地球においてはRNAだけで自己複製や機能発現を実現するRNA worldが存在し、更にその前にはRNAより単純な構造の“原始核酸:XNA”が存在していたというPre-RNA world仮説が提唱されています。しかし、“原始核酸”として相応しいXNAは未だ見つかっておらず、Pre-RNA world仮説は広くは受け入れられていませんでした。我々はこれまでに“原始核酸”の候補としてL-aTNA(acyclic L-threoninol nucleic acid)を報告しています。今回の研究では、有機小分子と金属イオンだけを用いて、L-aTNAをあたかも酵素反応のように配列複製できることを見出しました。この結果は、原始地球ではL-aTNAが“原始核酸”として存在していたという可能性を示唆しており、Pre-RNA world仮説を支持する結果です。更に、この配列複製技術を拡張することで、有用なL-aTNA配列をスクリーニングすることが可能となりますので、特定の分子にのみ選択的に作用する新たな核酸医薬や核酸ツール開発への応用が期待できます。

この研究成果は、2021年2月5日付 英国科学雑誌Nature Communicationsオンライン版に掲載されました。

本研究は、AMED『先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業』、基盤研究A、若手研究、公益財団法人立松財団の助成を受けたものです。
 

【ポイント】

・人工核酸L-aTNAの断片を非酵素的に連結し、鋳型配列に相補的なL-aTNA配列を選択的に合成する複製反応に成功した。

・Pre-RNA worldの存在を支持し、L-aTNAが“原始核酸”の候補であることが明らかとなった。

・L-aTNAを遺伝情報とする人工生命の開発やL-aTNAベースの核酸医薬や核酸ツール開発への応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

セントラルドグマ: 遺伝情報はDNAからRNA、RNAからタンパク質へと一方向に流れるという概念。

XNA(人工核酸): DNA、RNAの天然核酸を構成するリン酸、糖、核酸塩基のうち、リン酸あるいは糖部分の骨格が天然とは異なる化学構造をもつ人工的な核酸分子。核酸分解酵素に対する耐性を持つことから、核酸医薬の候補として近年盛んに研究されている。 

L-aTNA: 主鎖骨格にアミノ酸L-threonineの類似構造を持つ人工核酸。相補的なL-aTNAと極めて強く二重鎖形成し、DNAやRNAとも結合し二重鎖を形成できる。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

論文タイトル:Nonenzymatic polymerase-like template-directed synthesis of acyclic L-threoninol nucleic acid

著者:Keiji Murayama*(名大院工), Hikari Okita(名大院工), Takumi Kuriki(名大院工), and Hiroyuki Asanuma*(名大院工)

DOI: 10.1038s41467-021-21128-0

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 村山 恵司 助教

http://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/bioanal3/