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人文学

2021.03.19

旧石器時代の現生人類による石器の小型化プロセスを解明―現生人類の環境適応を促した技術革新の真相―

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の門脇 誠二 講師は、同研究科の須賀 永帰 大学院生と米国タルサ大学のDonald Henry(ドナルド・ヘンリー)名誉教授との共同研究で、旧石器時代の現生人類による石器の小型化プロセスを解明し、その理由を人類行動生態の観点から説明しました。現生人類がアフリカからユーラシアに拡散・定着した5万~4万年前には、各地で石器が小型化しましたが、その詳細なプロセスや理由については未解明でした。本研究は、現生人類によるユーラシア拡散の起点となった西アジアのヨルダン国で遺跡調査を行い、石器が次第に小型化した時期の石器標本を収集しました。そして、1万2千点ほどの石器を時代ごとに整理し、小型石器の増加プロセスや製作技術の変化を明らかにしました。

その結果、「小型石器は現生人類が発明した新たな狩猟具」という従来説とは異なる見解が得られました。小型石器はより以前から石器装備の脇役や副産物として存在しましたが、現生人類はそれを主役として利用することで石材消費を節約し、様々な条件下で安定した道具装備を可能にしたという新たな仮説を示しました。この新たな歴史記録は、限られた資源を有効に利用し人口を長期的に維持する技術とはどのようなものか、という現代にも関わる問題を考える上で参考になると思われます。

この研究成果は、2021年3月16日付Elsevier社の科学誌Quaternary Internationalにオンライン公開されました。この研究は、文科省科研費 新学術領域研究(2016~2020)と基盤研究A(2020~2024)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・ネアンデルタール人などの旧人注1)が絶滅した一方で、存続した現生人類注1)が使っていた小型石器注2)の出現プロセスが明らかになりました。

・「小型石器は現生人類が発明した新たな狩猟具」という従来説とは異なり、現生人類は以前から存在した小型石器の利点を引き出すようにその製作と使用を拡大させ、石材消費の節約や安定した道具装備を可能にしたという新たな説を示しました。

・研究された1万2千点ほどの石器標本は、ヨルダン国の6万5千年前~3万年前の遺跡調査によって採集された希少な標本で、名古屋大学博物館に保管されています。

 

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)旧人と現生人類:旧人は、ネアンデルタール人やデニソワ人など、現在は絶滅してしまった人類集団を指す。現生人類は現存する人類(Homo sapiens)とその系統の祖先集団を指す。別称としてホモ・サピエンスや新人とも呼ばれる。現生人類は約30万年前のアフリカで発生し、10万年前までには西アジア(中近東)に拡散していた。同時期のユーラシアでは、ネアンデルタール人やデニソワ人といった旧人が生息しており、新人と交雑があったことが近年の古代DNA研究で明らかになっている。 

注2)小型石器:長さ5 cm未満、幅1 cm程度でカミソリの刃のような打製石器。柄にはめられて用いられた。専門用語では、小石刃(しょうせきじん)や細石器(さいせっき)と呼ばれる。

 

【論文情報】

雑誌名:Quaternary International

論文名:Frequency and production technology of bladelets in Late Middle Paleolithic, Initial Upper Paleolithic, and Early Upper Paleolithic (Ahmarian) assemblages in Jebel Qalkha, southern Jordan

著者:Seiji Kadowaki a(門脇誠二), Eiki Suga b(須賀永帰), Donald O. Henry c

a. 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科

b. 名古屋大学大学院環境学研究科

c. タルサ大学人類学科

公開日:2021年3月16日

DOI:10.1016/j.quaint.2021.03.012

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館 門脇 誠二 講師

http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html