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生物学

2021.03.31

世界初!血糖値の安定化に寄与する天然ペプチドの発見

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の本多裕之 教授らの研究グループは、名古屋大学大学院生命農学研究科の柴田貴広 教授と共同で、天然アミノ酸からなる生理活性ペプチド注1)を発見しました。腸管内の細胞は様々な栄養素を検知して代謝を制御しています。遊離脂肪酸(FFA)もその一つで、FFAに対する受容体FFAR1を活性化するとインスリン注2)分泌により血糖値の上昇を抑えます。FFAR1を作動させる従来の低分子化合物は、毒性や副作用も報告されており、毒性の少ない新しい化合物の開発が注目されていました。

同グループは、同様の活性を持ち低毒性な新しい候補化合物として、天然アミノ酸からなるペプチドSTTGTQの探索に世界で初めて成功しました。さらに、機械学習注3)を用いた配列機能相関注4)解析により、さらに高い活性を持つペプチドも探索できることを明らかにしました。これらのペプチドは、膵β細胞でグルコース濃度依存的インスリン分泌を、さらに腸内分泌細胞注5)ではGLP-1分泌を促進したことから、従来の作動薬に代わる全く新しい血糖値安定化物質になる可能性があります。また、このペプチドをさらに改変し、本研究室で構築した可食性タンパク質注6)由来のペプチド約20万種類を収載したデータベースに突き合わせたところ、同等の活性を持つ可食性タンパク質由来のペプチド3種類の同定にも成功しました。

FFAR1を活性化するペプチドの発見は本研究が初めてであり、本研究で発見されたペプチドは二型糖尿病や肥満の予防・改善に効果がある機能性食品への利用や、FFAR1作動薬の基礎研究に役立つことが期待されます。

本研究成果は、学術雑誌Biochemical and Biophysical Research Communications, 550, 177-183 (2021)(2021年3月6日)に掲載されました。
 

【ポイント】

・天然アミノ酸からなるFFAR1活性化ペプチドを発見した。

・機械学習でさらに高活性なペプチドが探索できることを明らかにした。

・膵β細胞でグルコース濃度依存的インスリン分泌、腸内分泌細胞ではGLP-1分泌を確認。

・可食性タンパク質中に同等の活性を持つ3種類の天然ペプチドを発見した。

 

 ◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ペプチド:アミノ酸がペプチド結合で連なったポリマー。タンパク質になる天然アミノ酸は20種類ある。

注2)インスリン:膵臓β細胞(後述)で作られるペプチドホルモン。血糖値を下げる作用がある。インスリン分泌量や効き具合が低下すると2型糖尿病を発症する。

注3)機械学習:学習データを使ってある現象の本質を帰納法的に明らかにしようとするアルゴリズムあるいは構築した数学的関係式(モデル)のこと。ここではアミノ酸の物理化学的特徴を説明変数として生理活性の大小を学習している。

注4)配列機能相関:機械学習で構築したモデルで配列特性から生理機能の大小を類推すること。

注5)腸内分泌細胞:腸管上皮細胞の約1%を占める。消化管ホルモンを分泌することにより胃液や膵液の分泌および蠕動運動を促進し消化の制御に重要な役割をはたす。

注6)可食性タンパク質:食経験のある食物由来のタンパク質。米、大豆、乳、など多数ある。

 

【論文情報】

掲載紙:Biochemical and Biophysical Research Communications, 550, 177-183 (2021)

論文タイトル:Screening of a novel free fatty acid receptor 1 (FFAR1) agonist peptide by phage display and machine learning based-amino acid substitution

著者:Keitaro Yoshiokaa, Haruki Yamashitaa, Kazunori Shimizua, Sayako Shimomurab, Takahiro Shibatab, Jun-ichi Miyazakic, Hiroyuki Hondaa

a:名古屋大学大学院工学研究科生命分子工学専攻

b:名古屋大学大学院生命農学研究科応用生命科学専攻

c:大阪大学共創機構産学共創本部

DOI:10.1016/j.bbrc.2021.02.142

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 本多 裕之 教授