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医歯薬学

2021.04.02

脳腫瘍を1mL の尿で判定可能に! 〜尿中のマイクロ RNA にて 99%の正確度で脳腫瘍を発見〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学の夏目敦至(なつめあつし)准教授、北野詳太郎(きたのようたろう)客員研究員(筆頭著者)、青木恒介(あおきこうすけ)特任助教(共筆頭著者)、同大学大学院工学研究科生命分子工学専攻の安井隆雄(やすいたかお)准教授らは、尿中に含まれるマイクロ RNA※1 という物質を測定することで 99%の正確度で脳腫瘍が診断できることを明らかにしました。多くの脳腫瘍の患者さんは手足が動かない等の症状が出現するまで、CT や MRI 検査を受ける機会がなく、脳腫瘍が発見された時にはすでにかなりの大きさに進行している事が多くあります。進行した脳腫瘍は手術で完全に取り除くことが難しいため、腫瘍が小さいうちに発見し、治療を開始する事が重要になります。そこで、誰でもいつでも簡単に採取することができる尿を用いて、脳腫瘍を発見可能な方法の開発を試みました。個々の細胞は細胞外小胞体※2 に含まれるマイクロ RNA という核酸物質を介して、体内の離れた細胞に情報を伝達すると考えられています。今回、ナノサイズの酸化亜鉛※3 の氷柱状の結晶(ナノワイヤ※4)が約 1 億本密集していることを利用して、尿中の細胞外小胞体をより効率よく集める装置を開発し、わずか 1mL の尿から従来の方法に比べ大量のマイクロ RNA を抽出することに成功しました。なお、この装置は、多数の尿を同時に処理することもできます。この装置を用いることで、脳腫瘍が分泌する特徴的なマイクロ RNA を尿でも見つけられること、尿中のマイクロ RNA を調べることで脳腫瘍の種類や大きさを問わず、99%の正確度※5 (感度※6 100%、特異度※7 97%)で脳腫瘍を診断できることを世界で初めて発見しました。他の腫瘍においても特徴的なマイクロ RNA の発現パターンが存在する可能性が極めて高く、今回と同様の方法で様々な腫瘍が同時に診断できる可能性があります。
本研究成果は、米国化学会誌「ACS Applied Materials & Interfaces」(英国時間 2021 年 4 月 1 日付)のオンライン版に公開されました。なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の先進的医療機器・システム等技術開発事業(先進的医療機器・システム等開発プロジェクト)の「超高精度・無侵襲早期がん診断を実現する尿中 microRNA の簡易な機械解析システムの開発」の支援を受けました。


 
【ポイント】

○ 脳腫瘍は手足の麻痺等の症状が出現して初めて検査されることが多く、発見された時には手術で完全に取り除くことが難しいくらい進行している事があります。
○ 脳腫瘍の生存率を上昇のために、脳腫瘍の早期発見が課題です。
○ ナノワイヤ装置を用いることで、尿中のマイクロ RNA を従来の方法に比べ大量に取り出すことに成功しました。脳腫瘍が分泌する特徴的なマイクロ RNA は尿でも高頻度に同定できること、そして尿を用いた脳腫瘍の診断が 99%の正確度でできることを世界で初めて示しました。
○ 本研究成果はわずかな尿で脳腫瘍だけではなく、多種類のがんを同時に発見できる方法の開発につながる可能性があります。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 マイクロ RNA:生体機能を制御する小さな RNA。細胞内には多種類のマイクロ RNA が存在し、様々な生体機能を調節している。
※2 細胞外小胞体:細胞が分泌する直径 40~5000nm の小胞体。
※3 酸化亜鉛:日焼け止めなどに使われている素材。
※4 ナノワイヤ:数 10-100nm の大きさから構成される一次元の氷柱状のナノ結晶体。
※5 正確度:検査の性能を表す指標。全体の中で正しく判断される割合。
※6 感度:検査の性能を表す指標。疾患を有するもののうち、検査が正しく陽性と判断したものの割合。真陽性率。
※7 特異度:検査の性能を表す指標。疾患を有さないもののうち、検査が正しく陰性と判断したものの割合。真陰性率。

 

【論文情報】

掲雑誌名:ACS Applied Materials & Interfaces ”Open Access”
論文タイトル:Urinary MicroRNA-based Diagnostic Model for Central Nervous System Tumors Using Nanowire Scaffolds
著者:Yotaro Kitano,1,2,‡ Kosuke Aoki,1,3,‡,* Fumiharu Ohka,1 Shintaro Yamazaki,1 Kazuya Motomura,1 Kuniaki Tanahashi,1 Masaki Hirano,1 Tsuyoshi Naganawa,4 Mikiko Iida,4 Yukihiro Shiraki,5 Tomohide Nishikawa,1 Hiroyuki Shimizu,1 Junya Yamaguchi,1 Sachi Maeda,1 Hidenori Suzuki,2 Toshihiko Wakabayashi,1 Yoshinobu Baba,3,4,6 Takao Yasui,3,4,7,* and Atsushi Natsume1,3,*
所属:1. Department of Neurosurgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2. Department of Neurosurgery, Mie University Graduate School of Medicine, Tsu, Japan
3. Institute of Nano-Life-Systems, Institutes of Innovation for Future Society, Nagoya University, Nagoya, Japan
4. Department of Biomolecular Engineering, Nagoya University Graduate School of Engineering, Nagoya, Japan
5. Department of Pathology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
6. Institute of Quantum Life Science, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology, Chiba, Japan
7. Japan Science and Technology Agency (JST), PRESTO, Kawaguchi, Japan
‡ These authors contributed equally to this work.
DOI:10.1021/acsami.1c01754
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/ACS_App_Mat_210402en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科  夏目 敦至 准教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/clinical-neurosciences/neurosurgery/