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医歯薬学

2021.05.14

GPR87 をターゲットとした光免疫療法の胸部腫瘍への応用開発 〜 ヒト化抗体の開発と治療応用 〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学博士課程4年の安井 裕智 大学院生(筆頭著者)、同大高等研究院・ JST 科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業 次世代研究者育成プログラム・JST 創発的研究支援事業採択研究者・最先端イメージング分析センター/医工連携ユニット 907 プロジェクト (B3 ユニット:若手新分野創成研究ユニット)・同大呼吸器内科学の佐藤 和秀 S-YLC 特任助教(責任著者)、株式会社 ペルセウスプロテオミクスの主任研究員石井 敬介らの研究グループは産学連携共同研究、前臨床研究として、GPR87※1を分子標的とする抗ヒト GPR87 モノクロナール抗体を開発し、その抗体を用いた悪性中皮腫、肺癌に対する近赤外光線免疫療法の応用開発に成功しました。 肺癌は世界で最も死亡数が多く、新たな治療が求められています。GPR87 は様々な癌の細胞表面にある一方、正常細胞にはほとんど認めないタンパク質で、癌の治療表的として注目されております。しかし、細胞内での作用に不明な点もあり治療薬の開発は進んでおりませんでした。 近赤外光線免疫療法は 2011 年に米国立がんセンター(NCI/NIH)の小林久隆 博士らにより報告された新しい癌治療法です。癌細胞が発現するタンパク質を特異的に認識する抗体と光感受物質 IR700※2 の複合体を合成し、その複合体が細胞表面の標的タンパク質に結合している状態で 690nm 付近の近赤外光を照射すると細胞を破壊します。
本研究では GPR87 抗体を作成し、IR700 の複合体を合成し、細胞実験と動物実験において GPR87 を標的とする肺癌に対する近赤外光線免疫療法の効果を証明しました。 本研究は、JST 科学技術人材育成費補助事業「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業:若手研究者スタートアップ研究費」、文部科学省研究大学強化促進事業、等のサポートを受けて実施され、学術出版社 Cell Press と The Lancet から共同発行されている科学誌「EBioMedicine」(2021 年5 月 13 日付電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○GPR87 は様々な種類の癌細胞に発現しているが、正常細胞にはほとんど発現していない。
○GPR87 は治療標的として期待されるが、治療薬の開発は進んでいない。
○手術検体から肺癌や悪性胸膜中皮腫に GPR87 が高頻度に発現していることを確認した。
○GPR87 を標的とした近赤外光腺免疫療法の開発に成功した。
○本研究は、GPR87 を標的とした近赤外光線免疫療法を人へ応用する際、基礎的知見として貢献することが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 GPR87: 細胞外からの様々なシグナルを細胞内に伝達する G タンパク質受容体の一つ。癌との関係性が注目されているが、その機能は不明な点が多い。
※2 IR700: ケイ素フタロシアニン骨格を持った、水溶性の光感受物質。690nm 付近の波長の光を吸収し、700nm の蛍光を発する。

 

【論文情報】

掲雑誌名:EBioMedicine
論文タイトル:Near-infrared photoimmunotherapy targeting GPR87: Development of a humanised antiGPR87 mAb and therapeutic efficacy on a lung cancer mouse model
著者:Hirotoshi Yasuia, Yuko Nishinagaa, Shunichi Takia, Kazuomi Takahashia, Yoshitaka Isobea, Misae Shimizub, Chiaki Koikeb, Tetsuro Takic, Aya Sakamotod, Keiko Katsumid, Keisuke Ishiid, Kazuhide Satoa,b,e,f
所属:a Respiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine
b Nagoya University Institute for Advanced Research, Advanced Analytical and Diagnostic Imaging Center (AADIC) / Medical Engineering Unit (MEU), B3 Unit
c Department of Pathology, Nagoya University Graduate School of Medicine,
d Perseus Proteomics, Inc.
e FOREST- Souhatsu, CREST, JST

f Nagoya University Institute for Advanced Research, S-YLC
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2021.103372
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/ebio_210513en.pdf