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化学

2021.05.24

放射線照射による物質の発光現象を利用し、陽子線「ミニビーム」の高分解能撮像に成功 ~新しい粒子線がん治療法の線量評価への応用に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の山本 誠一 教授、矢部 卓也 大学院生は、兵庫県立粒子線医療センターの赤城 卓 博士とともに、がん治療に用いる陽子線 注1)を1㎜のスリット状にした「ミニビーム」をアクリルブロックに照射した時に生じる発光 注2)を利用し、ビームの形状を高分解能で撮像することに成功しました。

陽子線などの粒子線がん治療の新しい治療法として、「ミニビーム」が提案されています。粒子線ビームをスリット状にして、がんに照射すると、正常組織への影響を減らせる一方で、がんの部分では従来の治療と同じ治療効果が得られる可能性があるというものです。しかし「ミニビーム」は構造が細かいため、その線量分布注3)を短時間で実測することは困難でした。

これまで、放射線を水やアクリルに照射することで微弱光が発生することを発見し、この光を高感度カメラで撮像することで、放射線の線量分布の画像化に成功していましたが、今回、1㎜幅の複数のスリットで構成される陽子線ビームの形状を数分で、高分解能撮像することに成功しました。また、ビームは表面付近でスリット状に分布し、ビームの終端部では均一になる典型的な「ミニビーム」の分布の実測画像を得ることができました。

本研究は、これまで短時間測定が困難であった陽子線「ミニビーム」の線量分布を、わずか数分で画像化できることを示した世界初の成果です。今後、治療で用いられる他の種類の放射線の「ミニビーム」にも利用されることが期待されます。

本研究成果は、2021年5月21日付英国医学物理学専門誌「Physics in Medicine and Biology」にオンライン掲載されました。
 

【ポイント】

・「放射線照射による物質の発光現象」を利用し、「ミニビーム」陽子線治療を想定した1㎜幅のスリット状の陽子線を、数分で高分解能撮像することに成功した。

・ビームは表面付近でスリット状に分布し、ビームの終端部では均一になる典型的な「ミニビーム」の分布の実測画像を得ることができた。

・今後、放射線発光計測法が陽子線のみならず、治療で用いられる他の種類の放射線の「ミニビーム」に対しても利用されものと期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)  陽子線:

陽子を加速し、患者の腫瘍に照射することで治療を行う放射線治療に使われるビームの一種。線量を腫瘍に集中して与えることができるため、治療効果が大きい利点がある。

注2)  アクリルブロックに照射した時に生じる発光:

従来、低いエネルギーの放射線照射では、水やアクリルは発光しないと考えられていた。しかし、この常識に反し、数年前に低いエネルギーの放射線照射で水やアクリルが発光することを明らかにした。

注3)  線量分布:

放射線治療では、患者に放射線を照射したときにどの部分に、どの程度の放射線の影響があるかを知った上で治療を行う。この放射線を照射された対象が受ける影響の大きさを示す量を線量と言い、その分布を線量分布という。線量分布は計算により求められるが、確認のために電離箱を用い動かしながらの測定も行われる。

 

【論文情報】

雑誌名:Physics in Medicine and Biology(英国医学物理学専門誌)

論文名:Possibility evaluation of the optical imaging of proton mini-beams

著 者:山本 誠一(名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻 教授)、

矢部 卓也(名古屋大学院生)、赤城 卓(兵庫県立粒子線医療センター 博士)

DOI:10.1088/1361-6560/ac02d7

URL: https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6560/ac02d7

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 山本 誠一 教授
http://s-yama.net/index.html