TOP   >   工学   >   記事詳細

工学

2021.05.24

真空蒸着が可能な「フラーレン誘導体」を開発 ~安定な有機太陽電池・電子機器の高性能化に貢献~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科(未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所兼務)の松尾 豊教授らの研究グループは、温和な酸化剤を用いたメトキシ基注1)からケト基注2)への直接酸化反応を開発し、その反応を鍵として、400 ℃以上の高温にも安定で、真空蒸着による成膜が可能な「フラーレン誘導体注3)」を開発しました。

本研究グループは、これまでにも真空蒸着が可能な「フラーレン誘導体」を探索してきましたが、今回初めて、どのような構造をもてば、真空蒸着における高温に耐えうる「フラーレン誘導体」になるのかを明らかにし、全く分解させずに「フラーレン誘導体」の真空蒸着膜を得ることに成功しました。得られた「フラーレン誘導体」の真空蒸着膜は均質で欠陥が少なく、フラーレンの真空蒸着膜と同等の電子移動度を示すことを明らかにしました。真空蒸着法は信頼性のある有機電子素子注4)を作製する際に用いられ、「フラーレン誘導体」はn型有機半導体として有望な材料です。

「フラーレン誘導体」が真空蒸着により成膜できるようになることで、安定な有機太陽電池注5)や、分解能の高い有機イメージセンサの実現に貢献し、自然エネルギーの利用や豊かな情報技術社会の発展に寄与するものと期待されます。

本研究成果は、2021年5月21日18時(日本時間)付英国科学雑誌「Communications Chemistry」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・  フラーレン(C60)に有機化合物を取り付けた「フラーレン誘導体」の中で、初めて真空蒸着が可能な物質を合成した。

・  今回開発した「フラーレン誘導体」は、窒素ガス中、400℃以上の温度まで安定であった。

・  真空蒸着により作製した「フラーレン誘導体」の薄膜は、欠陥の少ない良質な膜で、C60の薄膜と同程度の電子移動度を示した。

・  「フラーレン誘導体」を合成するにあたり、メトキシ基をケト基に直接酸化する高効率な新規反応を開発した。

・  有機太陽電池、有機イメージセンサーなどの有機電子素子での利用が可能であり、将来の電子機器の高性能化に寄与すると期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)メトキシ基:

-OCH3または-OMeで表記される有機基。強いルイス酸試薬によりメチル基(-CH3)を外すことができ、水酸基(-OH)に変換することができる。

注2)ケト基:

=Oで表記される有機基。炭素原子上にケト基があるものはケトン(C=O)とよばれる。

注3)フラーレン誘導体:

フラーレン(C60)に有機分子を取り付けた化合物。フラーレンの性能向上のために、有機合成により有機物が取り付けられる。

 注4)有機電子素子:

有機半導体を用いたエレクトロニクスデバイス。有機物は電気をたくさん通すわけではないので、有機半導体を薄膜にして構築される場合が多い。有機太陽電池、有機EL

素子、有機トランジスタ、有機イメージセンサ、有機フォトダイオードなどがある。 

注5)有機太陽電池:

有機半導体を発電層とする有機薄膜太陽電池や、ペロブスカイト材料を発電層とするペロブスカイト太陽電池がある。軽量、フレキシブルといった特徴がある。

 

【論文情報】

雑誌名:Communications Chemistry

論文タイトル:One-step direct oxidation of alkoxy to ketone for evaporable fullerene-fused ketone as efficient electron-transport materials

著者: Hao-Sheng Lin(東京大学研究員・現名古屋大学助教), Yue Ma(中国科学技術大学学生), Rong Xiang(東京大学准教授), Sergei Manzhos(ケベック大学州立科学研究所准教授・現東京工業大学准教授), Il Jeon(釜山大学助教授), Shigeo Maruyama(東京大学教授), Yutaka Matsuo*(名古屋大学教授, *は責任著者)

DOI:10.1038/s42004-021-00511-4
URL:https://www.nature.com/articles/s42004-021-00511-4     

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 松尾 豊 教授

http://www.matsuo-lab.net/