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医歯薬学

2021.06.14

悪性リンパ腫治療に応用が可能となる CD37CAR-T 細胞の作成に成功

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学の清井仁教授、寺倉精太郎講師、大学院生 奥野真吾・安達慶高らのグループは B 細胞性悪性リンパ腫等に発現している CD37※1 抗原という標的に対する新規キメラ抗原レセプター (CAR)遺伝子導入 T 細胞※2(CAR-T)の作成に成功しました。
近年再発・難治性悪性リンパ腫に対する新規治療として導入された CD19 抗原に対する CAR-T細胞による治療は、CD19 陽性悪性リンパ腫に対して驚異的な治療効果を示しますが、一方で治療後の再発時に CD19 陰性となって再発することがあることが知られており(CD19 陰転化再発)、これに対する対策が必要であると考えられました。そのため研究グループは、新しい標的抗原として CD37 を選び、CD37 に対する CAR-T の開発を行いました。その過程で CAR の構造を変化させることによって標的に結合した後のシグナルの伝わり方が変化することを見出し、これを用いることで臨床的に使用可能な CD37CAR-T 細胞として作成することができました。研究グループの用いた CD37 抗体では抗原認識部位と細胞をつなぐ部分を長くすると強いシグナルが伝わり、自己抗原も認識してしまう同士討ちが起こりますが、抗原認識部位と細胞をつなぐ部分を短くすることによって伝わるシグナルを調節し、同士討ちを防ぐことができました。CD37 以外の様々な標的抗原に対する CAR を開発するにあたり、それぞれの標的抗原に応じた最適な構造を得るための知見として有用であると考えられます。
本研究成果は、国際科学誌 「The Journal of Immunology」(2021 年 6 月 7 日付の電子版)に掲載されました。


【ポイント】

○ CD37 抗原に対する CAR-T 細胞の構造を変化させることによって、CD37CAR-T 細胞の活性化シグナルを微調整することができた。
○ CD37CAR-T は、細胞外部分の長さが長いときには自己の CD37 抗原を認識して同士討ちしたが、細胞外部分を短くすることによって同士討ちをしないようになった。
○ 同士討ちしないようにさせることによって、臨床応用可能な CD37CAR-T 細胞を作成できた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 CD37  

成熟したリンパ球に発現する抗原であり、成熟 B 細胞性悪性リンパ腫においてよく発現している細胞表面タンパク。
※2 キメラ抗原レセプター (CAR)遺伝子導入 T (CAR-T)細胞 

抗体等の細胞外ドメインとシグナル伝達のための細胞内ドメインからなる人工レセプターをキメラ抗原レセプターと呼び、これを T リンパ球等の免疫細胞に遺伝子導入して臨床応用されている。CAR-T を遺伝子導入して作成した T リンパ球を CAR-T 細胞と呼び、近年臨床応用されている。

 

【論文情報】

掲雑誌名:The Journal of Immunology
論文タイトル:Spacer length modification facilitates discrimination between normal and neoplastic cells and provides clinically relevant CD37 CAR-T cells
著者:Shingo Okuno1, Yoshitaka Adachi1, Seitaro Terakura1, Jakrawadee Julamanee1,2, Toshiyasu Sakai1, Koji Umemura1, Kotaro Miyao1, Tatsunori Goto1, Atsushi Murase1, Kazuyuki Shimada1, Tetsuya Nishida1, Makoto Murata1 and Hitoshi Kiyoi1
所属:1 Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Division of Clinical Hematology, Faculty of Medicine, Prince of Songkla University, Songkhla, Thailand
DOI:https://doi.org/10.4049/jimmunol.2000768
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/jou_imm_210607en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 清井 仁 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hematology/