TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2021.06.29

小児固形腫瘍における RNA シーケンスの有用性を評価 ~ RNA シーケンスは小児固形腫瘍の診断と治療戦略の開発に貢献する~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科小児科学の高橋義行(たかはし よしゆき)教授、村松秀城(むらまつひでき)講師、同大医学部附属病院小児がん治療センターの奥野友介(おくの ゆうすけ)病院講師、病理部の下山芳江(しもやま よしえ)准教授、名古屋医療センター小児科の市川大輔(いちかわ だいすけ)医員、埼玉県立小児医療センター臨床研究部の中澤温子(なかざわ あつこ)部長らの研究グループは、小児固形腫瘍のうち特に肉腫が疑われた患者において包括的遺伝子解析を行い、その成果を報告しました。
小児固形腫瘍は、多種多様な 100 以上のサブタイプに分かれている一方、実際には異なる腫瘍であるにも関わらず互いによく似た病理所見が認められる症例や、非典型的な病理像をとる症例がしばしば存在することから、現在でも病理組織学的診断が困難な腫瘍群です。本研究グループは、小児固形腫瘍の診断プロセスに次世代シーケンサー*1を用いた RNA シーケンス*2を含めることの潜在的な有用性を評価するために、小児固形腫瘍が疑われる患者 47 人に RNA シーケンスを実施しました。
小児がんを専門とする複数の病理医により病理標本を再評価したところ、42 名の患者は既知のサブタイプの固形腫瘍と診断された一方、5 名の患者は特定の病理診断に至らず「未分化肉腫」に分類されました。これらの患者検体を用いて RNA シーケンス解析を行った結果、これまでに報告されたことのない SMARCA4-THOP1 融合遺伝子が発見された 1 名を含め、23 名の患者で診断に有用な遺伝子変異が検出されました。とりわけ、病理診断が「未分化肉腫」にとどまった 5 人の患者のうち 4 人で診断的な遺伝子変異が確認され、明確な診断に至りました。これらの結果から、RNA シーケンスを用いた遺伝子解析は、小児固形腫瘍の診断ならびに将来の治療戦略の開発に大いに役立つことが明らかとなりました。
本研究結果は「npj Genomic Medicine」(2021 年 6 月 15 日電子版)に掲載されました。


【ポイント】

○病理組織学的検査に加えて RNA シーケンスを組み合わせた診断プロセスの導入により、小児固形腫の診断精度が向上することが明らかとなりました。
○とりわけ、特定の病理診断が得られず「未分化肉腫」に分類された腫瘍では、5 人中 4 人で診断的な遺伝子変異が確認され、明確な診断につながりました。
○新規に SMARCA4-THOP1 融合遺伝子を発見し、SMARCA4 の対立アレル*3の変異と重なることで、SAMARCA4 遺伝子の不活化が示され、これが発がんに関与することが示唆されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

1. 次世代シーケンサー:DNA などの塩基配列を読み取る装置をシーケンサーという。「次世代シーケンサー」は従来の「第 1 世代シーケンサー」と対比させて使われる用語。次世代シーケンサーでは従来のものと比べて大量の塩基配列を低コストで迅速に解析することが可能。
2. RNA シーケンス解析:次世代シーケンサーを用いて RNA の塩基配列を網羅的に解析する手法を指す。融合遺伝子の網羅的な検出や、網羅的な遺伝子発現定量解析を行うことができる。
3. アレル:各遺伝子座は 2 種類の遺伝子(父由来と母由来)から構成されており、その片方のこと。


【論文情報】

掲雑誌名:npj Genomic Medicine
論文タイトル:Integrated diagnosis based on transcriptome analysis in suspected pediatric sarcomas
著者:Daisuke Ichikawa1, Kyoko Yamashita2,3, Yusuke Okuno4, Hideki Muramatsu1, Norihiro Murakami1, Kyogo Suzuki1, Daiei Kojima1, Shinsuke Kataoka1, Motoharu Hamada1, Rieko Taniguchi1, Eri Nishikawa1, Nozomu Kawashima1, Atsushi Narita1, Nobuhiro Nishio1,5, Asahito Hama1, Kenji Kasai6, Seiji Mizuno7, Yoshie Shimoyama8, Masato Nakaguro8, Hajime Okita9,10, Seiji Kojima1, Atsuko Nakazawa9,11, and Yoshiyuki Takahashi1*
所属:1Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
2Department of Pathology and Biological Responses, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
3Department of Pathology, The Cancer Institute Hospital, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan
4Medical Genomics Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.
5Department of Advanced Medicine, Center for Advanced Medicine and Clinical Research, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.
6Department of Pathology, Aichi Medical University School of Medicine, Nagakute, Japan.
7Department of Pediatrics, Central Hospital, Aichi Developmental Disability Center, Kasugai, Japan.
8Department of Pathology and Laboratory Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.
9Department of Pathology, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan.
10Division of Diagnostic Pathology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan.
11Department of Clinical Research, Saitama Children's Medical Center, Saitama, Japan.
DOI:10.1038/s41525-021-00210-y
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/npj_Gen_Med_210615en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 高橋 義行 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ped/