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数物系科学

2021.07.12

宇宙空間で電波を生み出す陽子の集団を発見 ~JAXAの人工衛星「あらせ」の観測と解析から~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の小路 (しょうじ)真史 特任助教、三好 由純 教授、Lynn M. Kistler (リーン・キスラー)特任教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 浅村 和史 准教授、京都大学の松岡 彩子 教授、東北大学の笠羽 康正 教授、金沢大学の笠原 禎也 教授らの研究グループは、JAXA・宇宙科学研究所の科学衛星「あらせ」注1)の観測データから、宇宙空間で電波を生み出すイオン(陽子)の集団を検出することに世界で初めて成功しました。

これは、本研究グループが開発している新しい解析手法によって実現したもので、イオンの集団が動くことによって、電波の周波数が下げられる様子を直接検出したことで明らかになりました。この発見によって、宇宙空間で自発的に電波が生み出されている仕組みが明らかになりました。

本研究グループが開発した手法は、宇宙空間に存在するイオンによって作り出される電波の発生過程を、観測データを用いて、電波とイオンの運動を詳細に対応づけることで明らかにするもので、2022年打ち上げ予定の欧州、日米の国際共同木星探査ミッション「JUICE」でも活用され、木星系の超高層大気で、イオンが電波を生み出す過程を明らかにしようとしています。このように、宇宙に存在する様々な種類の電波が生まれる仕組みを解明するのに活用されていくことが期待されます。

本研究成果は、2021年6月29日付英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
 

【ポイント】

・ジオスペース注2)のプラズマにおける新しい解析手法の開発

   ジオスペースの電波が生まれてくる瞬間を特定することが可能となる。

・ジオスペースの電波の発生場所の特定と発生メカニズムの解明

   ジオスペースの電波の一種である「電磁イオンサイクロトロン波動」注3)の発生源の特定とジオスペースのプラズマ分布の観測を新しい手法で解析することによって、発生メカニズムの解明に成功した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)科学衛星 「あらせ」: JAXA・宇宙科学研究所が2016年12月にイプシロンロケットで打上げた人工衛星。放射線帯の電子の数が変化する仕組みの詳細が解明されることが期待されている。

注2)ジオスペース: 高さ400kmから約10万kmの間の宇宙空間には、プラズマ(電気を帯びた粒子群)が存在している。このプラズマの分布が変化することにより、オーロラの活動が変化したり、また、宇宙空間の放射線(放射線帯と呼ばれる領域のエネルギーの高い粒子群)が変化したりする。

注3)電磁イオンサイクロトロン波動: 宇宙空間で自然発生する電波の一種。宇宙空間に存在する高温イオンの磁力線周りの旋回運動と共鳴することでエネルギーを得て発生すると考えられており、地球周辺では1ヘルツ程度の周波数を持つ。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports(Nature Research)

論文タイトル:Discovery of proton hill in the phase space during interactions between ions and electromagnetic ion cyclotron waves

著者:

小路 真史 名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教

三好 由純  名古屋大学宇宙地球環境研究所  教授

Lynn M. Kistler 名古屋大学宇宙地球環境研究所  特任教授、ニューハンプシャー大学 教授

浅村 和史  宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授

松岡 彩子 京都大学地磁気世界資料解析センター 教授

笠羽 康正  東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター  教授

松田 昇也  宇宙航空研究開発機構 特任助教

笠原 禎也    金沢大学学術メディア創成センター  教授

篠原 育  宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所  准教授

DOI: 10.1038/s41598-021-92541-0                                       

URL:  https://www.nature.com/articles/s41598-021-92541-0

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 小路 真史 特任助教

https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/