TOP   >   数物系科学   >   記事詳細

数物系科学

2021.08.24

乱れた量子系における粒子数揺らぎと量子もつれの成長則を発見 ~コーヒーの染みの広がりとの意外なつながり~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学高等研究院・大学院工学研究科の藤本和也 特任助教、名古屋大学大学院工学研究科の川口 由紀 教授の研究グループは、理化学研究所開拓研究本部の濱崎 立資 理研白眉研究チームリーダーとの共同研究で、乱れたポテンシャルを持つ1次元格子上の自由フェルミ粒子系注1)における量子ダイナミクスを理論的に調べ、「系の一部分に含まれる粒子数の揺らぎ注2)」と「量子もつれ注3)」の成長が、古典系注4)の界面成長で知られている「動的スケーリング注5)」で特徴づけられることを明らかにしました。

時間とともに変化する非平衡現象は、状況設定に依存した多彩な様相を示し、一見とらえどころがない振る舞いを示します。しかし、統計的な性質をみると系の詳細に依存しない普遍的な性質が現れることがあります。その代表例は古典系の界面成長で、イメージしやすい例は衣服などについたコーヒーの染みになります。この界面の粗さ注6)の時間変化は、長さと時間の基準となる単位を状況ごとに取り直せば、一つの関数で記述できる場合があり、このような性質は「動的スケーリング」と呼ばれています。

本研究では、古典系の界面成長と一見異なる、乱れた量子系の非平衡ダイナミクスを調べました。その結果、界面成長と類似の動的スケーリングが、粒子数揺らぎと量子もつれの成長に現れることを発見しました。これは、乱れた量子系の普遍的側面を理解するための新しい見方を提案しています。

本研究成果は、2021年8月24日付American Physical Society 「Physical Review Letters」に掲載されました。

本研究は、科学研究費助成事業(JP18K03538, JP19H01824, JP19K14628, 20H01843)、CREST(JPMJCR16F2)、木下記念事業団、豊田理研スカラー、文科省の科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業(高等研究院の世代研究者育成プログラム)の支援のもと行われました。
 

【ポイント】

・量子力学で記述される、乱れたポテンシャル中におけるフェルミ粒子系のダイナミクスを調べ、その粒子数揺らぎと量子もつれが古典系の界面成長で知られたFamily-Vicsekスケーリング注7)を示すことを発見。

・古典系で発展してきた界面成長の物理を用いることで、乱れた量子系における非平衡ダイナミクスの普遍的側面が界面粗さ成長という新しい視点で捉えられる可能性を提示。

 

 ◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)乱れたポテンシャルを持つ1次元格子上の自由フェルミ粒子系:

図3の水色の山でイメージされる乱れた1次元ポテンシャル中のフェルミ粒子系を指す。ここで、フェルミ粒子は同じ場所を2つ以上の粒子が占有できないフェルミ統計に従う粒子であり、そのような粒子が相互作用しない多粒子系を自由フェルミ粒子系と呼ぶ。

注2)系の一部分に含まれる粒子数の揺らぎ:

ある場所の粒子数は、1サイトあたりの平均粒子数から一般にずれる。このずれを特徴づける量として粒子数揺らぎ演算子が定義され、この演算子を全系の一部分について和をとった量を界面高さ演算子と呼ぶ。本プレスリリースでは、界面高さ演算子の平均二乗偏差を簡便に「系の一部分に含まれる粒子数の揺らぎ」と呼ぶ。

注3)量子もつれ:

量子系の非局所的な相関。

注4)古典系:

ニュートンの運動方程式、マクスウェル方程式などで記述される系。量子力学が生まれる以前の理論体系で記述される系のことをよく指す。

注5)動的スケーリング:

時間変化する現象において、空間と時間などを同時に拡大もしくは縮小の変換をした時に、変換前後で区別がつかないときに現れる法則。正確には、時間変化する物理量の相関関数などを用いて定義される。

注 6)界面の粗さ:
平均界面高さからの揺らぎを定量化した量。界面高さの平均二乗偏差で定義される。

 

【論文情報】

雑誌名:Physical Review Letters

論文タイトル:Dynamical Scaling of Surface Roughness and Entanglement Entropy in Disordered Fermion Models

著者:Kazuya Fujimoto1,2, Ryusuke Hamazaki3, and Yuki Kawaguchi2     

所属:1. 名古屋大学 高等研究院、2. 名古屋大学大学院 工学研究科、3. 理化学研究所

DOI:10.1103/PhysRevLett.127.090601

URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.127.090601

 

【研究代表者】

高等研究院 藤本 和也 特任助教

http://www.rover.nuap.nagoya-u.ac.jp/index.htm