TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・門松健治)・システム生物学分野の島村徹平(しまむらてっぺい)教授、箕浦広大(みのうらこうだい)医学部学生、分子細胞免疫学分野の西川博嘉(にしかわひろよし)教授 (国立がん研究センター 研究所 腫瘍免疫研究分野、先端医療開発センター 免疫TR 分野 分野長併任)らの研究グループは、ディープラーニングの一種である深層生成モデルを応用し、シングルセルマルチオミクスデータから有用な知見を抽出する人工知能技術を開発することに成功しました。近年発展が著しいシングルセル解析技術の進展により、トランスクリプトーム、エピゲノム、細胞表面マーカーといったモダリティ情報を一細胞レベルで網羅的に計測することが可能となり、疾患の原因となりうる細胞集団の同定や異常細胞の機能解析が盛んに行われています。中でも、同じ細胞から複数のモダリティを同時計測することのできるシングルセルマルチオミクス解析が近年注目を集めています。シングルセルマルチオミクス解析により、単一のモダリティでは捉えきれない細胞集団の多様性や機能が明らかになることが期待されていますが、こうした複数モダリティの複雑な情報を含んだビッグデータから医学生物学的に有用な知見を発見するための手法は限られていました。
そこで、同研究グループはシングルセルマルチオミクスデータの解析に特化した人工知能技術scMM (A mixture-of-experts deep generative model for integrated analysis of single-cell multiomics data)を開発しました。scMM は大規模データから個々のデータの潜在的な状態を推論することが可能な深層生成モデルを基盤として開発されており、複数モダリティの統合や圧縮、モダリティ間の関係性の発見などを完全に自動で行うことが可能です。
本研究は、シングルセルマルチオミクス解析を用いた研究を加速し、感染症、がん、精神疾患などの様々な疾患の一細胞レベルでの理解や新規治療法の確立に寄与するものと期待されています。この研究成果は「Cell Reports Methods」のオンライン版に掲載されました(現地時間 2021 年9 月 15日)。

 

【ポイント】

・ディープラーニング(※1)の一種である深層生成モデル(※2)を用いて、シングルセルマルチオミクスデータにおける複数モダリティの情報を圧縮・統合する人工知能技術scMM を開発した。
・シングルセルマルチオミクスデータのモダリティ間の関係性を自動で学習し、モダリティをまたいだ情報の変換による欠損モダリティの補完に成功した。
・scMM を用いることでシングルセルマルチオミクスデータから有用な知見を効果的に抽出することが可能であり、感染症、がん、精神疾患などの様々な疾患の一細胞レベルでの病態解明を加速することが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1. ディープラーニング
近年の人工知能分野の急速な発展に大きく寄与した、機械学習手法の一つ。大規模データから効率的に学習を行い、ニューラルネットワークによって非常に複雑なデータ構造を捉えることができる。

※2. 深層生成モデル(deep generative model)
統計モデルの一種である生成モデルの学習にディープラーニングを用いた一連の手法の総称。様々な確立分布を組み合わせることで、データや解析目的に応じた柔軟なモデルを設計することが可能。強固な理論的裏付けがあることやその柔軟性から、非常に強力な手法として近年広く用いられている。

【論文情報】

掲雑誌名:Cell Reports Methods
論文タイトル:A mixture-of-experts deep generative model for integrated analysis of single-cell multiomics data
著 者: Kodai Minoura1,2, Ko Abe3, Nam Hyunha1, Hiroyoshi Nishikawa2,4, and Teppei Shimamura1,*
所属:1Division of Systems Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
2Department of Immunology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
3Laboratory of Medical Statistics, Kobe Pharmaceutical University
4Division of Cancer Immunology, Research Institute/EPOC, National Cancer Center, Tokyo/Chiba, Japan.
DOI:10.1016/j.crmeth.2021.100071

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Cell_Rep_Met_210916en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 島村 徹平 教授

https://www.nagoya-sysbiol.info/