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大学院医学系研究科

No.5 西川 博嘉 教授

My Best Word:What’s new today?

 

Q:「My Best Word」を選ばれた理由は?

Memorial Sloan Kettering Cancer Center留学中、研究室のトップのLloyd J. Old博士からの表題の言葉を皮切りに、毎日1日の終わりにその日の進捗報告をし、検討をしていました。これは大変なプレッシャーで、当時はとても辛かったです。しかし、毎日その日の自分のデータを咀嚼し、次の実験を考える上で大変重要な機会で、今でも日々のデータや今後の研究の展開を考える上でとても重要な習慣になっています。もっとも、当時の私などは、なかなかデータが出ず“Dr. notyet”というあだ名をつけられる始末でしたが……。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

がんに対する免疫応答がどのように調節されているかを明らかにする研究を通じて、免疫寛容機構 [免疫系が異物(非自己)に反応して自己には反応しない機構]の解析を進めています。免疫寛容に関わる細胞の中でも、制御性T細胞と呼ばれる細胞に着目してがんに対する免疫応答への関わりを研究し、がん免疫療法への応用を進めています。このような研究を通じて、免疫応答の根幹である免疫寛容(自己に対して反応しない)と免疫監視(非自己に対して反応する)の制御機構について明らかにし、がんを含めた幅広い疾患の病態解明につなげたいと考えています。

 

Q:この研究によって可能になることは?

免疫系は、ウィルスや細菌などの異物を生体から排除する機構です。近年の研究から、がん、動脈硬化などほぼ全ての疾患に免疫が関連していることが明らかになりつつあります。免疫応答の制御機構を明らかにすることで、病気の本態が解明され、新しい治療法の開発につながります。がんに対して免疫療法が臨床応用され、2018年のノーベル生理学・医学賞に選ばれたことは記憶に新しいところです。

 

Q:研究を始めたきっかけは?

医学部を卒業して臨床研修の後、血液・腫瘍内科で診療をしていました。日々、多くのがん患者さんを治療しましたが、残念ながら治療が奏功することは少なかったです。そこで、より効果的で副作用の少ない治療法を開発したいと考え、がんの研究を始めました。所属していた教室の珠玖教授から、がんに対して免疫応答が誘導されることを学び、がんに対する免疫応答の制御機構が全く解明されていないことを知り、免疫、とりわけ、がん免疫研究に取り組みました。

 

 

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研究室メンバーと実験室にて

 

Q:研究が面白い!と思った瞬間はどんな時ですか?

研究を進めている時、思わぬ実験結果に出くわします。私は大学院生時代に、がん細胞を破壊するT細胞を強化してがん治療に結びつけようと研究していました。ところが、T細胞を強化させるためにマウスに投与した試薬が、反対に、がんを悪化させてしまいました。全く予想外の結果でしたが、何度繰り返しても同じようにがんを悪化させました。そこで、その試薬を投与したマウスを詳しく研究したところ、同じT細胞でも免疫寛容に関わる制御性T細胞を強化していたことがわかりました。これがきっかけで、現在も(20年以上)制御性T細胞の研究を続けています。このようなSerendipityが研究の醍醐味であり、面白いところです。

 

Q:本年、ノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学高等研究院副院長 本庶 佑 James P. Allison博士と親交がおありと伺いました。エピソードを教えてください。

ノーベル生理学・医学賞を受賞されたJames P.Allison博士は、私の留学先のMemorial SloanKettering Cancer Centerで、同じフロアの隣の研究室のトップでした。とても気さくな研究者で、私のような隣の研究室の研究員までランチに誘って、研究談義で盛り上がりました。ちょうどノーベル生理学・医学賞の対象となったCTLA-4を標的とした治験が開始されつつあった頃で、私が研究していた制御性T細胞でのCTLA-4の役割などについて議論しました。

 

Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

留学先のMemorial Sloan Kettering Cancer Centerで、私が所属していたLloyd J. Old博士研究室に泌尿器腫瘍部門からクリニカルフェローとして来ていた研究員の一人(Dr. PadmaneeSharma)が、James P. Allison博士と非常に活発な議論をしていました。その方が、後に、Allison博士の奥様になりました。

 

Q:今後の目標は?意気込みも含めてお願いします。

様々な疾患に関わる免疫応答の制御機構を解明して、個体の生命現象、疾患との関連を詳らかにしたいと考えています。現在は、がんに対する免疫応答を研究していますが、より多くの病気の本態を明らかにし、新しい効果的な治療法の開発につなげたいと思っています。

  

氏名(ふりがな) 西川 博嘉(にしかわ ひろよし)

所属 大学院医学系研究科

職名 教授

            

略歴・趣味

1995年三重大学医学部医学科卒業。2002年三重大学大学院医学系研究科博士課程内科学専攻修了(医学博士)。2003年Memorial Sloan Kettering Cancer Centerリサーチフェロー、2006年三重大学大学院医学系研究科病態解明医学講座講師、2010 年大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学特任准教授、2012 年Roswell Park Cancer Institute Adjunct Associate Professor(兼任)を経て、2015年より国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野/先端医療開発センター免疫トランスレーショナルリサーチ分野分野長、2016年4月より名古屋大学大学院医学系研究科微生物・免疫学講座分子細胞免疫学教授をクロスアポイントメント。趣味はスポーツ全般(特に野球)。

 

 

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